ESG(環境・社会・企業統治)投資が会社と働く人の未来を激変させている。「企業の『働きがい』や『働きやすさ』に関するデータに投資家が大きな興味を持ち、人的資本への投資を促すようになっている」と言うのは、『ESG投資で激変! 2030年 会社員の未来』の著者で、元楽天(現・楽天グループ)IR部長の市川祐子氏だ。働く側も、若いときから仕事を任せてくれる成長企業に就職し、スタートアップへの転職を経て起業という未来図を描く人が増えているという。

ESGが大きな価値観となる時代、これから10年のキャリア戦略をどう立てていくべきか。市川氏がESG投資と深い関わりのあるキーパーソンに、自身の経験を通して語り合う本シリーズ。第4回は前回に続き、『FACTFULNESS(ファクトフルネス) 10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣』をはじめ数々のヒット書籍の翻訳を手がけ、ESGを重視するベンチャーキャピタルファンドを立ち上げた関美和氏との対談、後編をお届けする。

市川祐子(いちかわ・ゆうこ)
市川祐子(いちかわ・ゆうこ)
マーケットリバー代表取締役 楽天(現・楽天グループ)、NECグループで15年間IR(インベスター・リレーションズ/投資家向け広報)を担当。2016年に楽天IR部長。Institutional Investor誌において2013年より5年連続で「Best IR Professionals」Top3にランクイン(セクター別)。現在は上場・未上場の複数企業の社外役員を務め、企業のIR担当者や起業家向けにコーポレートガバナンスやIRのコンサルティングを行う。一橋大学財務リーダーシップ・プログラム(HFLP)非常勤講師。著書に『楽天IR戦記「株を買ってもらえる会社」のつくり方』(日経BP)

創業者の頭の中にある大きな未来を判断する

市川祐子さん(以下、市川):関さんはエムパワー・パートナーズ・ファンドというベンチャーキャピタル(VC)を女性だけで立ち上げられました。その事業は、成長性のあるスタートアップを見極めて、投資家から資金を募り、企業の成長を支援する仕事です。エムパワーは特にESGの視点があるかを、投資対象を選ぶ際に大切にされています。共に立ち上げられたメンバーは、ゴールドマン・サックス証券の元副会長で「ウーマノミクス」の提唱者でもあるキャシー松井さん、経済協力開発機構(OECD)東京センター元所長でダイバーシティー(多様性)の重要性に詳しい村上由美子さん。実は皆さん1965年生まれで、米ハーバード大学で学んだという共通点があるとか。 

関美和さん(以下、関):3人とも結構、無計画、行き当たりばったりなところも似ていて、このメンバーなら、「大きく返す」目標を達成できるかなと思っています。それにふたりと一緒に働くことがすごく勉強になっていて。キャシーさんも村上さんも人に任せるのが上手で、褒め上手で、ささいなメールにも必ずさっと返信してくれるの。

市川:皆さん、すごくお忙しいのに。

:今すぐ自分の得になるとか実になるといったことじゃなくても、依頼は受ける。やってみようとか、ちょっと顔を出してみようとか。もちろん時間の都合でどうしてもノーと言わなければけない場面もあるんですけれど。そういうふたりの行動力をすごく見習っています。自分とは考え方が違うとか、この人はいい人とか悪い人とか、そういう判断から入らない、排他的じゃないところも見せていただいていて。すごく学んでいますし、自分も実践したいなって思っているところです。

市川:私が関さんに初めてお会いしたのは楽天のIR(投資家向け広報)をしていたときで、関さんは投資顧問会社でお仕事をされていました。当時から、数字だけで企業を見ず、ESG的な観点を重視されているなと感じていましたけれど、エムパワーでは、当時はできなかった、こんなことをやりたいということはありますか?

:当時を振り返ると、自分としては失敗だったなと思う例が結構あって、原因は自分の理解できる範囲でしか世界を見ていなかったことなんです。若かったし、未熟でしたし。自分とは違うすごく大きな視点で世界を見たり、目指していたりする起業家をどうしても過小評価してしまう傾向がありました。

 投資判断という仕事上、どうしても批判的に見るのが癖になっていて、会社の業績予想が楽観的過ぎないかとか、こんなリスクがあるぞとか、ついあら探しをしてしまう。それにその方が投資家として、ちょっと賢く見えるんですよね。

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