市川:当時はどこもそうだったと思います。転職を決意されたきっかけが……。

:ダンプカーにはねられて、2カ月入院しました。入院中に、「死ぬまでにやりたいこと」を紙に書き出して、電通を辞めることを決めたんです。

 外資系の投資銀行に転職し、「自分は本当にこの仕事が好きだなあ」と思いながら働く日々でしたね。職場の同僚は、そこで2~3年働いたら会社を辞めて外に出るのが当たり前というのも刺激的で。当時(その職場では)みんなビジネススクールに行っていました。ちょうど私が入社したタイミングで、米ハーバード・ビジネス・スクールに行く女性がいらしたのですが、彼女は日本で生まれ育ち、日本でしか教育を受けたことがないと聞いて、「同じ人間なんだから、もしかしたら私だってハーバードに受かるかも」って。「同じ人間」というすごく大きなくくりで「私もできるかもしれない」と野心を抱きました。

市川祐子(いちかわ・ゆうこ)
市川祐子(いちかわ・ゆうこ)
マーケットリバー代表取締役 楽天(現・楽天グループ)、NECグループで15年間IR(インベスター・リレーションズ/投資家向け広報)を担当。2016年に楽天IR部長。Institutional Investor誌において13年より5年連続で「Best IR Professionals」Top3にランクイン(セクター別)。現在は上場・未上場の複数企業の社外役員を務め、企業のIR担当者や起業家向けにコーポレートガバナンスやIRのコンサルティングを行う。一橋大学財務リーダーシップ・プログラム(HFLP)非常勤講師。著書に『楽天IR戦記「株を買ってもらえる会社」のつくり方』(日経BP)

市川:目標どおりに2年後にはハーバード・ビジネススクールへ。帰国後は米モルガン・スタンレー、米投資顧問のクレイ・フィンレイなど複数の金融機関で投資に携わられた。その後、投資顧問会社を辞めてフリーランスの翻訳家に。私、関さんが翻訳された本をたくさん読んでいます。

:ふふ、ありがとうございます!! でも、フリーランスの翻訳家として駆け出しのタイミングで夫に離婚を切り出され、いきなり「無職のシングルマザー」になってしまいました。「翻訳家の吉野家」を目指して10年頑張って、翻訳した『FACTFULNESS(ファクトフルネス)10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣』(日経BP)が大ヒットしたことは大きな転機になりました。

世の通説に隠れた、意外な「真実」が好き

:これまでの人生を振り返ってみると、当時は自覚していたわけではないのですけれど、私の人生には3つのテーマがあることに気づきました。1つ目が「隠れた真実を探す」、2つ目が「身近な不便や不満を解消してみる(小さく試みる)」、3つ目が「たまたま受けた幸運を返す(できるだけ大きく)」なんです。

市川:面白いです。「隠れた真実を探す」はまさに『ファクトフルネス』ですね。

:世の中の90%の人が「A」と思っているけれど、実はそうじゃないことを探し出したいという気持ちが常にあります。例えば「日本人は英語の読み書きはできるけれど話せない」という通説がありますよね。講演会でお話しさせていただくときなどに「そう思う人は手を挙げてください」というと、まずほぼ全員が手を挙げます。

市川:実は、日本人は読みも書きも、あんまりできないと思います。

:そうなんです。読みも書きもできないっていうのが本当なんですね。なぜかというと、日本語を読むようなスピードでは英語を読めないし、書けないじゃないですか。 

市川:読めないです。私もすごく遅いです。

:日本語と同じように読めて書ければ、絶対話せるし、聞けるはずです。実際、国際比較でTOEFLの点数を見ると、日本人は読み書き、スピーキング、リスニング全てが低い。「読み書きはできるけど話せない」のではなくて、全部できないって認識することが結構、重要かなと。 

 ダイバーシティー(多様性)に関しての通説もありますよね。「男女格差を解消するためには女性の社会進出を後押ししなければならない」。これも「正しいと思う人は手を上げてください」って質問すると、全員が手を上げます。だけど私はちょっと違うと思っていて。男女格差を解消するためには、「女性の社会進出を後押ししなければならない」ではなくて、「男性の家庭進出を後押ししなければならない」が私の持論です。だから、そちらの方の政策を頑張ってくれないと駄目よねって私は思っているんです。

市川:すっごく同感です。

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