『ESG投資で激変!2030年 会社員の未来』の著者である市川祐子氏が、ESG(環境・社会・企業統治)投資と深い関わりのあるキーパーソンとパーパスの重要性を語り合う本シリーズ。前回に続き、メルカリ会長の小泉文明氏の後編をお届けする。

世界と勝負できる「ESGのフォーマット」

市川祐子さん(以下、市川)前回、小泉さんはメルカリでESGに非常に早くから積極的に取り組んでいらっしゃったと伺いました。どういう過程だったのか教えてください。

小泉文明さん(以下、小泉):ESGを打ち出していこうというのは僕が言い出しっぺなんです。社長室直下のプロジェクトとしてESGへの取り組みを始めたのは2018年のことで、マザーズ上場企業(当時)では、多分うちが一、二を争う早さだったと思います。グローバルな資本市場の流れの中でESGの文脈が出始めたタイミングで、これはすごくメルカリと相性がいいぞと、ピンときたんです。

市川祐子(いちかわ・ゆうこ)
市川祐子(いちかわ・ゆうこ)
マーケットリバー代表取締役 楽天(現・楽天グループ)、NECグループで15年間IR(インベスター・リレーションズ/投資家向け広報)を担当。2016年に楽天IR部長。Institutional Investor誌において13年より5年連続で「Best IR Professionals」Top3にランクイン(セクター別)。現在は上場・未上場の複数企業の社外役員を務め、企業のIR担当者や起業家向けにコーポレートガバナンス(企業統治)やIRのコンサルティングを行う。一橋大学財務リーダーシップ・プログラム(HFLP)非常勤講師。著書に『楽天IR戦記「株を買ってもらえる会社」のつくり方』(日経BP)

市川:フリマアプリの運営というメルカリの事業は、まさにESG投資家が目指す循環型社会の実現のど真ん中にありますものね。そのことにいち早く気づき、メルカリの「ミッション」と「バリュー」を言語化して、グローバルに発信した。そこが素晴らしいです。

小泉:日本は「もったいない」という言葉が示すように、ESG的な文化がもともとあるのですが、投資家への説明のフォーマットがすごく日本ぽくて、グローバルに伝わりにくいんです。でも僕が思うに、ESGの良さは、同じフォーマットで投資家が世界中の企業をすぐに比較できるということ。だからそのフォーマットで発信したら、絶対に僕らは評価されるだろうと思っていました。

市川:ESGのフォーマットというのは、ESG投資家が使う評価基準のことですね。ミッションを核に価値創造ストーリーをつくり、E(環境)は二酸化炭素排出量削減とか、S(社会)なら人的資本とか事業に重要性のあるものを彼らの見やすいように整理し、サステナビリティーレポートとして開示する。

 私が驚いたのは、メルカリのミッションとバリューをつくったのは社員がまだ10人くらいのときだということ。ミッションは「新たな価値を生みだす世界的なマーケットプレイスを創る」。バリューが「Go Bold(大胆にやろう)」「All for One(全ては成功のために)」「Be a Pro(プロフェッショナルであれ)」の3つ。創業時からはっきりしています。

小泉:ミッションとバリューは会社のカルチャーそのものについての発信ですから。

市川:そういった発信は、対投資家だけじゃなく、社員にもいい影響があったそうですね。

小泉:海外で働く社員から「メルカリのサービスを使ったことはなかったけど、プロダクトを通して世界をどう変えてきたかというところに共感したから入社したんだ」と言われたことがあって、ものすごくはっとしました。それもメルカリのサービスが展開されていない国の社員が、あらためて感じてくれたようで。これはすごい、ESG課題への取り組みをグローバルなフォーマットで説明する効果ってこういうことなのだなと。

市川:本当にいい話ですね。言葉にしたことで、いろんなメリットが出る。

小泉:言葉にしなくてもプロダクトを見れば分かるよねって考えがちなんですけれど、僕は共感を生むには言語化がすごく重要だと思っています。ESGへの取り組みもその文脈の一つですね。

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