ESG(環境・社会・企業統治)投資が会社のルールと働く人の環境を激変させている。足元ではウクライナ危機によるマーケットの不安定な動きがESG投資にも影響しているが、長期投資家が利益追求の合理的な文脈から、ESG対応により優れた企業を投資対象とすることに揺るぎはない。日本企業が今「人的投資」に躍起になるのも、ESGのS(社会)の課題として投資家がそれを求めるからだ。

9月に発売された『ESG投資で激変!2030年 会社員の未来』は、楽天(現・楽天グループ)とNECグループで15年にわたりIR(インベスター・リレーションズ/投資家向け広報)を担当してきた市川祐子氏が、ESG投資が変えた企業の新しいルールを分かりやすく解説する、全ての働く人の道しるべとなる1冊だ。

「これからの10年を生き抜くためには、組織のパーパス(存在意義)と自身のパーパスが一致していることが重要」と市川氏は言う。では、「自分のパーパス」はいかに見いだせばいいのだろうか。ESG投資と深い関わりのあるキーパーソンが自らのキャリアの遍歴を通して、パーパスの重要性を市川氏と語り合う。最初の対談相手はメルカリ会長の小泉文明氏。前後編2回に分けてお届けする。

小泉文明(こいずみ・ふみあき)
小泉文明(こいずみ・ふみあき)
メルカリ取締役プレジデント(会長) 兼 鹿島アントラーズ・エフ・シー代表取締役社長 早稲田大学商学部卒業後、大和証券SMBC(現・大和証券)にてミクシィやDeNA(ディー・エヌ・エー)などのネット企業のIPO(新規株式公開)を担当。2006年よりミクシィにジョインし、取締役執行役員CFO(最高財務責任者)としてコーポレート部門全体を統括する。12年に退任後はいくつかのスタートアップを支援し、13年12月メルカリに参画。14年3月取締役就任、17年4月取締役社長兼COO(最高執行責任者)就任、19年9月取締役プレジデント(会長)就任。19年8月より鹿島アントラーズ・エフ・シー代表取締役社長を兼任

大和証券からミクシィ、メルカリへ

市川祐子さん(以下、市川):小泉さんが会長を務めるメルカリは、ESG委員会を設置するなど、事業とESGの推進の両立に早くから取り組んでいます。今、関心が高まっているウェルビーイング(心身の健康や幸福)な人材育成にも積極的です。

 小泉さんがメルカリのESG対応の主導役だそうですが、それには小泉さんの職歴もかなり関係がありそうです。まずはそこから伺っていいですか?

小泉文明さん(以下、小泉):どうぞどうぞ。

市川:小泉さんは大学を卒業後に大和証券SMBC(現・大和証券)に入社。その後、ミクシィの最高財務責任者(CFO)、エンジェル投資家を経て、メルカリに参画されて今、会長。そして鹿島アントラーズ・エフ・シーの代表取締役社長もなさっています。

小泉:もともと、自分で何か事業をやりたいという思いは昔からあって、大学時代からインターネットで物を売買したりとかして稼いでいたんですね。ただそのビジネスを人生のなりわいにしていくほどモチベーションは高くなかったのと、IPO(新規株式公開)する企業の裏側を知るには自分がアドバイザーになるのが一番いいんじゃないかと思って、証券会社に就職しました。勉強するために就職した感じに近いかもしれないです。

市川:なるほど。証券会社でIPO担当になれば優秀な起業家が見られますね。

小泉:インターネット業界が好きだったので自分から希望して担当させてもらい、2年目にディー・エヌ・エー(DeNA)のIPOをさせていただいて、3年目にミクシィのIPOをさせていただいて……。その結果、やっぱり自分もあちら側に行きたいと思って3年半で証券会社を辞めました。

市川:ミクシィに行かれて、翌年には取締役執行役員CFO(最高財務責任者)に。

小泉:ミクシィの社員が10~20人だった頃から証券会社のアドバイザーという立場で財務に携わってきましたから。4年ぐらい取締役をさせていただいている間に、会社が勢いよく成長し、社員800人、売り上げが数百億円という規模になって、どんどん優秀な社員が入ってくるようになりました。

 そうすると、僕はもう一回スタートアップを始めたい、次のステップに行くべきだな、という思いになって。まだ何をやりたいかもなかったけど、辞めたのが31歳のときです。1年半ほど充電して、33歳のときにメルカリへジョインしました。

市川:小泉さんの場合、新卒の時点である程度、次を見据えて就職先を考えたということですね。

小泉:怒られちゃうかもしれないけど、正直言ってそうです。大和証券の居心地はすごく良くて、あのままでも僕は楽しいサラリーマン生活を送っていたと思いますけれど。

市川:そういう感じがします。今も大和証券の皆さんと仲良くされていますよね。

小泉:僕みたいなタイプがまた証券会社へ戻っても全然いいと思っているんです。会社の経営をしてみたからこそ、資本市場はこうあるべきだ、というものが出てきたので。証券会社の経営に近しいところ、例えば東京証券取引所とか、金融庁とかもありだと思っています。

市川:確かに。小泉さんが東証とか、ありですね。

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