岸見:貢献については、これまでのリーダーシップ論では、あまり注目されていなかったように思います。

 以前にも申し上げた通り、「叱る/ほめる」をやめようという、私の主張のうち、「叱るのをやめる」については、今の社会は、以前より受け入れる土壌ができてきました。「ほめるのをやめる」は、まだ浸透していませんが、青野社長のように「叱る/ほめる」に限界を感じられるリーダーは、出てきているのかもしれません。

 それでは、「叱る/ほめる」のをやめて、代わりにどうすればいいのか。必ず問われます。

 その答えははっきりしていまして、貢献に注目することです。リーダーが、部下の貢献に注目していれば、部下は、ほめられることをしようとは思いませんし、わざと叱られるようなこともしません。

わざと叱られようとする人

岸見:「叱られたくない」と思う人、あるいは、「注目されたい」と思うがために、ほめられるようなことをしたり、わざと叱られるようなことをしたりする人がいます。そういう人は、自分のことしか考えていません。

 そういう人たちが、「自分」に関心を向けるのでなく、「組織」に、あるいは「社会」や「世の中」に対して、関心が向けられるようにする。そのために、組織や社会への「貢献」に注目し、光を当てるのです。

 そのような具体的な行為が、「ありがとう」「助かった」「うれしかった」というような言葉がけなのです。そのような言葉をかけ続ければやがて、ほめることも叱ることも必要なくなります。今回の本で、強調したことです。

日本人は特に、「ごめんなさい」を言いがちである気がします。

岸見:率直に申し上げて、自分が悪いことをしていないのに、謝ってほしくないのです。だから、青野社長にも、「ごめんなさい」は省いて、全部、「ありがとう」だけで通してもいいのではないかと思うくらいです。

「貢献」に焦点を当てる

青野:そうですね。大事にすべきは、謝罪でなく、感謝と貢献。

岸見:自分では気づかなかったことに、気づかせてもらうというのは、本当にありがたいですし、個人が変わるだけでなく、組織全体が大きく変わるきっかけにもなります。そのような指摘を自分がしたことで「貢献した」と、部下が考えられるようになったら、お互いの指摘が、揚げ足取りでなく、非難でもなく、組織のための発言になっていくと思います。

青野:その意味では、私にはまだ、良くない意味での「嫌われたくない気持ち」が、残っているのかもしれません。

岸見:私も、子どもに発言するときなどは、「このようなことを言ったら、どう受け止められるだろう」と思うあまり、言うべきことのトーンを下げてしまうということは確かにあります。難しいのは、私自身、よく分かります。

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