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 感染症は、人間の生きる世界をいかに変えてきたのか?

 歴史学者である、東北大学大学院経済学研究科の小田中直樹教授が、この問いに答えるのが、『感染症はぼくらの社会をいかに変えてきたのか ― 世界史のなかの病原体』だ。ポストコロナを予測する材料を世界史のなかに探した。

 願わくば、本書を起点に、読者に「その先」を探求してもらいたい。

 そんな思いから、第一読者となっていただいたのが、バイオベンチャー・ユーグレナ社の創業メンバーで、医学と農学の両博士号を持つ鈴木健吾さん。

 これまでにも紹介してきたが、鈴木さんは、ユーグレナ社の出雲充社長と東京大学農学部の同窓生。学生時代、2人で出場した「大学生投資コンテスト」で圧勝。その際、ブラック・ショールズ理論を瞬時に理解して運用に活用し、「本物の天才がいた!」と、出雲社長を驚愕(きょうがく)させた。その後、研究者として「サイエンスを社会実装する」ことを目指し、出雲社長と起業する道を選び、現在は、研究開発担当の執行役員として経営に携わる傍ら、マレーシア工科大学の客員教授などを務め、グローバルに活躍する。

 そんな理系の“天才”にして、経営の最前線に立つ鈴木さんが、感染症の歴史を振り返って思うのは……。

「新型コロナウイルス感染症対策を考えるため、熱力学を学び直したい」

 エントロピーの概念から得られる示唆と、数理化モデルの可能性。

 感染症は、人間が2人以上いて初めて成立する。そんな感染症の持つ社会性を、科学の視点で分析する。

鈴木 健吾(すずき・けんご)
1979年生まれ。東京大学農学部生物システム工学専修卒、2005年8月、出雲充氏(現ユーグレナ社長)、福本拓元氏(現ユーグレナ執行役員・ヘルスケアカンパニー営業部担当)とともにユーグレナ創業、取締役研究開発部長就任。同年12月、世界初の微細藻類ユーグレナ(和名:ミドリムシ)の食用屋外大量培養に成功。06年東京大学大学院農学生命科学研究科修士課程修了。16年東京大学大学院農学博士学位取得。19年北里大学大学院医学博士学位取得。現在、ユーグレナ社研究開発担当の執行役員として、微細藻類ユーグレナおよびその他藻類のヘルスケア部門における利用に関する研究に携わる傍ら、ユーグレナ由来のバイオ燃料製造開発に向けた研究に挑む。19年よりマレーシア工科大学マレーシア日本国際工科院客員教授、東北大学・未来型医療創造卓越大学院プログラム特任教授を兼任。

鈴木健吾氏(以下、鈴木):今回、東北大学の小田中先生が著された『感染症はぼくらの社会をいかに変えてきたのか』を読んで感じたのは、今回の新型コロナウイルス感染症によるパンデミック(感染爆発)は、マクロな視点でとらえれば、ある種の必然ではないか、ということです。

 人口密度が高い都市が出現すれば、汚水や排ガス、二酸化炭素といった有害物質が蓄積し、それらが適切に処理されなければ、健康への悪影響を通じて集団の密度を減らすことにつながります。人が都市に集中することの潜在的なリスクが顕在化した、という意味では、新型コロナウイルス感染症のパンデミックも、同じ文脈で理解できると思います。

確かに、小田中先生の本を読んで歴史を振り返ると、感染症の流行には、都市化が深く関わっていたことが浮かび上がります。

 ヨーロッパにおける14世紀のペスト感染爆発には、地球の寒冷化に加えて、イタリアを中心とする中世都市の成立が深く関わっていました。また、かつてはベンガル地方の風土病だったコレラは19世紀、蒸気機関車や蒸気船による交通革命によって、都市化が進むヨーロッパにもたらされ、パンデミックを起こしました。

鈴木:つまり、広範な地域に散在していた人々が、都市という一部地域に集中することが、感染症の流行を引き起こしてきたというわけです。

 そのような構造を、もう少しマクロに、なおかつ科学的な視点でとらえると、「エントロピー」という概念で理解できるのではないか、と思います。