鈴木:片づけの話に戻れば、放っておけばエントロピーは増大し、散らかるわけです。しかし、何らかの力――それをネゲントロピーと呼んでもいいですが――を働かせることで、それらが片づくわけです。本をより使いやすい状態に整頓しようと、本を背の高い順に並べたり、著者の名前の順に並べたり、規律ある状態に凝縮させていくわけです。

 そう考えると、旦那さんの、「エントロピーは増大するのだ!」という発言は、「自分としては、エントロピーが増大するという自然な流れに対して、逆らう気持ちはない。そこに人為的な力や規律を働かせる意思はない」というスタンスを示す言葉だと考えられます。そのような意思表明としては、適切な言葉遣いではないでしょうか。

拡散を止めるのは「仕事=W」

エントロピーに逆らうのに必要なのは、人の意思、ということでしょうか。意思あるところに、ネゲントロピーが働くということですか?

鈴木:気体や組織、細胞に意思があるというのは、科学者の立場からは想像しにくいです。

 けれど、そうですね、物理学でいうところの「仕事」だと理解すればいいでしょう。

 気体を凝縮させるには、物理学において「W」で表現されるところの「仕事」が必要であり、床に落ちた本を拾って棚に並べるのも、ゴミを拾って掃除するのも、必要なのは「仕事」ですよね。

そう考えれば、都市化も「仕事」ですね。

鈴木:人を分子に見立て、一人ひとりが自然の恵みだけに頼る生活をしていれば、手付かずの資源を求めて拡散し、エントロピーは増大するはずです。

 しかしながら、より効率的な生活を追求する中で、高度に協力しあって暮らすことを選択し、過剰に「分子=人」が凝縮している場所もあります。

 それが、都市です。化石由来の燃料などを使って拡散できるはずの人々が、一定の限られたエリアに、満員電車に揺られながらもとどまっている、という事象には、エントロピーが増大する傾向とは異なる動きが見られます。

つまり、人間社会には、エントロピーとネゲントロピーが同時に働いている。

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