鈴木:エントロピーはなかなか難しい概念ですが、ざっくりと言ってしまえば、乱雑さや無秩序さ、不規則さを量として示すもので、熱力学や統計力学のほか、情報科学でも用いられる考え方です。

 エントロピーは、基本的には増大します。つまり、自然なままにしておけば、物質は凝縮された状態から、発散された分布の状態に移行するということです。

 例えば、気体の分子は、放っておけば、拡散します。生物の組織も、生物が死んでしまえば、腐ってバラバラになり、水分も抜けて、拡散していくわけです。

なるほど。私事で恐縮ですが、かつて夫が家を片づけないのに腹を立てて文句を言ったところ、「エントロピーは増大するのだ!」と反論されて、絶句した経験があります。文系の私は、エントロピーなどという言葉をほとんど耳にせずに大人になりましたが、理系の夫にはなじみある言葉だったようです。以来、エントロピーという言葉が、個人的に気になっています。

整理整頓とエントロピー

鈴木:そうですか(苦笑)。エントロピーは、「放っておくと、散らばっていく」という話なので、確かに、部屋が散らかることのアナロジーとしては、理解しやすいかもしれません。

 ただ、エントロピーは、単純に増大するばかりではありません。

 気体の分子は、放っておけば、拡散しますが、人為的に凝縮させることも可能です。先ほども申し上げた通り、生物の組織も、生物が死んでしまえば、いずれ腐ってバラバラになり、水分も抜けて、拡散していくわけですが、生きている間は、何らかの力が働いて、水分を保ちながら、細胞の構造が維持され、エネルギーも凝縮されて、大きくなっていく。

 つまり、エントロピーが増大してバラバラになる状態にあらがって、物質が凝縮した状態を保とうとする力が働くケースがある。

 こうしたエントロピーにあらがう力のことを、「ネガティブ・エントロピー」、略して「ネゲントロピー」と呼ぶことがあります。

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