ポイント④ ビジネスモデルを横展開
バイトダンスのビジネスモデルの強みは、①外部コンテンツの有効活用、②アルゴリズムを活用したコンテンツ配信、③アルゴリズムを活用した広告提供、という3つです。
これが生かせる領域としてショートムービーに白羽の矢が立ちました。2016年にスマホ向けのアプリ(10数秒から数分の動画を撮影、編集、共有するもの)を開発し、ショートムービーの業界に参入したのです。
その代表がTikTokの原型となる抖音(ドウイン)です。抖音は、音楽機能に特化したショートムービーアプリです。
バイトダンスは今日頭条で開発したアルゴリズムを抖音に活用しました。アルゴリズムがあれば利用者の視聴履歴はビッグデータとして解析できます。それぞれの好みに応じて動画を次から次へと流すことができるので、利用者としては、1曲だけのつもりが、気がつけば2曲、3曲と動画に釘付けとなります。利用者が関心を持ちそうな広告が短い動画のコ ンテンツとして流されるので、利用者はそれも眺めることになります。
動画アプリは他社の模倣だがアルゴリズムで勝利
抖音は、先行していたショートムービー「Musical.ly」を手本にしたものです。Musical.lyは、中国人の起業家である朱駿(ジュ・ジュン)さんと楊陸育(ヤン・ルーユー)さんによって2014年7月にリリースされました。音楽機能に特化し、人気歌手の曲に合わせて15秒の口パクやダンス動画を制作・共有できるものでした。
注目すべきは、Musical.lyはアメリカ市場にも同時に投入されたという点です。ちょうどその頃、アメリカでは『リップ・シンク・バトル』という口パクコンテストの番組が流行っていました。Musical.lyのアプリは話題になり、毎日約500人がダウンロードして利用したそうです。とくに、毎週木曜日、この番組が放送された後にたくさんの人がダウンロードして、大成功を収めたそうです。
アメリカ市場での反応が中国国内をはるかに上回ったので、Musical.lyの経営陣は資源をアメリカ市場に集中させます。しかし、これが思わぬ結果を引き起こします。のちに中国市場を開拓しようとしたとき、すでに抖音をはじめとした競合に市場を占められてしまったのです。
抖音はMusical.lyを徹底的に模倣しました。トップページのUI(ユーザーインターフェイス)ばかりでなく、基本機能もほぼ同じです。利用者を増やすための打ち手であるハッシュタグの運営もまったく同じです。
Musical.lyはUIの基本機能などで先進的だったのですが、最適なレコメンドをするためのアルゴリズムについては大きく後れを取り、挽回することができませんでした。
外国市場への展開を開始
抖音で大成功を収めたバイトダンスは、2017年、同様のサービスを外国向けに展開します。サービス名を「TikTok」として150の国・地域へと市場を広げていきました。そしてついに世界一のアプリとなったのです。
最初はニュース配信アプリからスタートしたバイトダンスですが、次はそれをショートムービーへと展開しました。そして、そのアプリを中国国内から、外国市場へと横展開していったのです。

このようにバイトダンスの基本戦略はきわめて単純です。まず、利用者の閲覧履歴などの行動情報をもとに利用者にぴったりのコンテンツをレコメンドするという技術を開発しました。そして、この独自技術を生かしてキラーアプリを開発して世界中に広げていきました。次に、自社のアプリの利用者を拡大し、できるだけ長い時間そこに留まらせ、膨大なトラフィックを確保しました。トラフィックが増えれば増えるほど、広告料収入を伸ばすことができるのです。
世界最先端の起業実験場から勝ちパターンを抽出
アリババ集団や 騰訊控股(テンセント)など「中国の元祖スタートアップ」はもちろん、それに続く新星スタートアップ企業の「最速の勝ちパターン」をビジネスモデルの視点から解説。成功や失敗の因果関係を整理するシステムシンキングや、ビジネスモデルを見える化するピクト図解を使って、世界最先端の起業実験場となった中国のエコシステムを分かりやすく説明します。
井上達彦・鄭雅方(著) 日経BP
◎目次
第1部:事業レベルの急成長の論理――好循環を生み出すビジネスモデル
快看漫画――スマホから生まれたヒット連発の漫画エコシステム
新氧――「整形日記」公開で美容外科の世界最大プラットフォーム誕生
VIPKID――中国の子供とアメリカの英語教師をマッチング
ピンドゥオドゥオ――SNS共同購入でアリババ超えの神速成長
第2部:全社レベルの急成長の論理――企業価値を高めるビジネスモデルの展開
バイトダンス――TikTokはニュース配信のアルゴリズムから生まれた
メイトゥアン――ありとあらゆるサービスを提供するスーパーアプリ
シャオミ――スマホメーカーからネットサービス企業へと進化
第3部:エコシステムの急成長の論理――「緩やかな連携」と「緊密な統合」
テンセント――模倣戦略からオープンプラットフォームへ
アリババ――あらゆるビジネスの可能性を広げる力になる
まとめ:史上最速成長の理由――中国スタートアップを支えるミクロとマクロの好循環
著者紹介

早稲田大学 商学学術院 教授。1992年横浜国立大学経営学部卒業。1997年神戸大学大学院経営学研究科博士課程修了、博士(経営学)。広島大学社会人大学院マネジメント専攻助教授、早稲田大学商学部助教授(大学院商学研究科夜間MBAコース兼務)などを経て、2008年より現職。2003年経営情報学会論文賞受賞。独立行政法人経済産業研究所(RIETI)ファカルティフェロー、ペンシルベニア大学ウォートンスクール・シニアフェロー、早稲田大学産学官研究推進センターインキュベーション推進室長などを歴任。専門はビジネスモデルと事業創造。著書に『模倣の経営学』『模倣の経営学 実践プログラム版』『ブラックスワンの経営学』(日経BP)、『ゼロからつくるビジネスモデル』(東洋経済新報社)などがある。

早稲田大学 商学学術院 助手。2009年台湾台北市立大学音楽学部卒業。台湾、中国で勤務の後、日本へ留学。2016年早稲田大学大学院商学研究科修士課程修了。在学中に中国進出コンサルティング会社やスタートアップでアクションリサーチを行い、中国のIT・スタートアップに関するメディアの立ち上げに携わる。2019年より現職。中国のスタートアップを中心に研究。
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