青野:でも、そのなかでも、心を割って話してくれるメンバーが1人、2人は出てきました。

 ファースト・ペンギンみたいなものですね。その人たちを大事にする。その人たちの意見に耳を傾け、その声を制度に反映させて、改善する。それを見ていただくと、社員の皆さんからの信頼度がちょっと上がる。すると、3人目、4人目が出てくる。

岸見:なるほど。

入社3年目の社員の意見で、制度改定

青野:印象的なエピソードを共有したいと思います。

 当時、入社3年目の若い営業メンバーが、全社員に適用されるボーナスの仕組みに意義を唱えたのです。「私は、こう変えた方が、みんなが喜んで活動できると思います」と。

 それで話を聞いてみると、これが結構、面白くて、みんなでオープンに議論することにしました。

どんな提案だったのですか。

青野:当時、ボーナスの支給額は、全社の売上高と連動していたのですが、ちょうどそのころ、サイボウズでは主力商品であるグループウエアのクラウド化を推進していました。従来は、顧客が自社でシステムを保有する、いわゆる「オンプレミス版」の販売が中心でしたが、これからはクラウド版を主力とし、販売を強化していこう、と。

 そんな折、入社3年目のその若い営業メンバーが、「それならば、クラウドの売上高をボーナスの支給額に連動させたほうがいいのではないか」と、声を上げたのです。

 このアイデアを役員や人事のメンバーなどと議論した結果、採用が決まりました。

 これには結構、インパクトがありました。入社3年目の一社員の提案で、全社のボーナス制度が変わってしまうのか、と。「なんだ、この会社は」「言った者勝ちなのか」と。そういうムードのなかで、組織への信頼感が高まるのを感じました。

「言った者勝ち」でいいのか?

岸見:しかし、「言った者勝ち」では、ダメですよね。どんな意見でも「言えば通る」ということではいけないのであって、組織の目的に照らして「それは通用しない」ということを、毅然と言わないといけない場面が、リーダーにはあるはずですし、特にリーダーが提案するときは言葉を尽くして説明しなければなりません。

青野:確かにそうです。

そこで次回は、「部下の提案を否決するとき、リーダーはいかにあるべきか」について。青野社長の実践体験をうかがいつつ、議論を深めます。

日経BPから『ほめるのをやめよう ― リーダーシップの誤解』を発売しました。

上司であることに自信がないあなただから、
よきリーダーになれる。そのために―

◎ 叱るのをやめよう
◎ ほめるのをやめよう
◎ 部下を勇気づけよう

『嫌われる勇気』の岸見一郎が放つ、脱カリスマのリーダーシップ論

ほぼ日社長・糸井重里氏、推薦。
「リーダー論でおちこみたくなかった。
おちこむ必要はなかったようだ」

●本文より―

◎ リーダーと部下は「対等」であり、リーダーは「力」で部下を率いるのではなく「言葉」によって協力関係を築くことを目指します。

◎ リーダーシップはリーダーと部下との対人関係として成立するのですから、天才であったりカリスマであったりすることは必要ではなく、むしろ民主的なリーダーシップには妨げになるといっていいくらいです。

◎ 率直に言って、民主的なリーダーになるためには時間と手間暇がかかります。しかし、努力は必ず報われます。

◎ 「悪い」リーダーは存在しません。部下との対人関係をどう築けばいいか知らない「下手な」リーダーがいるだけです。

◎ 自分は果たしてリーダーとして適格なのか、よきリーダーであるためにはどうすればいいかを考え抜くことが必要なのです。

● 現役経営者からの共感の声、続々!

サイボウズ社長・青野慶久氏
「多様性に対応できない昭和型リーダーシップに代わる答えが、ここにある。」

ユーグレナ社長・出雲充氏
「本書がコロナ禍の今、出版されたことには時代の必然がある」

面白法人カヤックCEO・柳澤大輔氏
「僕も起業家&経営者という職能を20年以上続けてきていますが、いわゆる起業家や経営者っぽくないと何度も言われてきました。自分自身、いわゆるリーダー体質じゃないなと思っていましたが、それは僕自身が知らず知らずにリーダーというものを過去の固定概念で捉えていたからのようです。リーダー像は多様化しており、時代とともに求められているリーダーの性質は変わり、もっといえば、誰でもなろうと思えばなれるし、一人ひとりがリーダーにならないとならないんだと思います。世の中をよりよくするために」

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