青野:そこで対話が必要になるのですね。理屈では分かっても、実践が難しいところです。しかし、今回、岸見先生が著された『ほめるのをやめよう』には、そのような場面で、どんな言葉を発したらいいかが、具体的に示されていて、実践に役立つと感じました。

 例えば、学校に行きたがらない子どもに対して、「学校に行きなさい」と命令するのでなく、「学校に行ってはいかがでしょうか」と、提案する。

会社だったら、「来週のプレゼンの準備を始めてくれませんか」といった具合でしょうか。

岸見:命令するのでなく、疑問文。あるいは、「こうしてくれると、うれしい(助かる)」といった仮定形を使って、相手に断る余地を残す。上司が言うことを断るのは難しいでしょうが、部下の受ける印象は変わります。断る余地がないと感情的に反発されます。ただし、受け取り方はやはり、一人ひとり異なるので、確認は必要です。

「今のままだったら、どうなると思うかね?」

岸見:現実には、なかなか成績が上がらず、失敗が目立つ部下に対して、「今のままだったら、どうなると思うかね」などと、相手に耳障りなことを言わなくてはならない場面はあるはずです。

 こういうとき、上司は部下に敬語を使ってもいい、使うべきだと、私は思います。立場が違うだけで、人間としては対等なのですから。

 それでも、「今のままだったら、どうなると思うかね」といったことを上司が言えば、部下がその言葉を、自分に対する皮肉や威嚇や挑戦だと受け止めるかもしれません。そう受け止められないような関係を、上司は普段から、部下との間に築いていかないといけない。手間暇がかかりますが、対話を重ねなくてはなりません。

 ここは、アドラー心理学の特徴ですね。時間がかかる、手間暇がかかる。

 効率だけを求めて学ばれる方は、いいとこ取りのように「ここは使える」といった発想をされますが、それでは部下といい関係を築くことはできません。技法だけを学ぶのでは十分ではないということに気づくのにも随分、時間がかかるような気がします。

 青野さんは、かなり長い時間をかけて勉強していただいているので、こうやって話していても、すごく安心感があります。

部下は、上司に本音を明かすのか?

青野社長は、社員に「尋ねる」ことを、リーダーの基本動作として大事にしていると、前回、うかがいました。社員に「どんな人事制度があったらいいと思うか」と尋ねて、ユニークな人事制度(詳しくはこちらに)をつくり上げてきた、と。

 そこで疑問に思ったのですが、社長から「意見を言ってほしい」と頼まれて、社員がそう簡単に本音を打ち明けるものでしょうか。

青野:いいえ、最初は全然。疑われっぱなしでした。

 前回も、お話しした通り、私は2006年に、リーダーシップのスタイルを大転換しました。みんなをぐいぐい引っ張るようなリーダーシップを志向した結果、業績が悪化し、社員の心が離れ、離職率が28%に達するという状況のなかで試行錯誤した末に、です。

 最初に、全社員と1人30分ずつ雑談して、「どんな働き方をしたいですか」と尋ねたのですが、誰も心を割って話してはくれませんでした。

岸見:「この社長にうかつなことを言ってはダメだ」と、社員が思うような対人関係が、すでにできてしまっていたのですね。

青野:はい、それまでは自分の意見を押し通して、社員をぐいぐい引っ張ろうとしていたのですから、それは疑われますよね。

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