青野:しかし、リーダーにしてみると、対話が大事と思ってはいても、どうしても時間がない。あれもやりたい、これもやりたいと、やりたいことが膨らむうちに、時間が押す。そうなると、部下とちょっと意見が合わなかったときに、「面倒くさい!」「さっさと片づけたい!」という感情が出てきてしまいます。

岸見:そうですよね。

 そこで、大きな声を出して怒鳴らずとも、「相手を自分の思うようにさせたい」と思ったとき、もうすでにリーダーと部下の間には権力争いが起きています。

 権力争いとは、平たく言えばけんかですから、上司が強引にことを進めれば、部下は言うことを聞くかもしれませんが、少なくとも快く受け入れることはできません。ですから、いずれどこかで部下が爆発するというようなことが起きるでしょう。

 難しいですね。このあたりのことは。

上司に「嫌われる勇気」が必要な場面もある

岸見:このようなとき、上司はやはり、部下に嫌われたくないものです。親子関係でも同じような場面はあって、親も子どもに嫌われたくない。

 上司として部下に意見したい、親として子どもに意見したいと思うことは当然あります。

 そんなときに「こんなことを言ったら嫌われるだろうな」と思って、言うべきことを言わないのは、自分のことにしか関心がない上司であり、親です。「自分がどう思われるか」ばかりを考えているという意味で、自分のことにしか関心がない。

 そういうリーダーが、自分のことではなく、組織のこと、あるいは後でまた詳しく話すかもしれませんが、広く社会のことや、世界に対して関心を持つリーダーになると、いろいろなことがおのずと変わっていくと思います。

 部下の意見には、耳を傾けなければならない。けれど、一方で、パワハラ的な意味でなく、部下に言うべきことを言わなくてはならない場面がある。部下に、その指摘を受け入れる用意がまだできていなくても、あるいは、その指摘で部下が感情的になる可能性があっても、上司は伝えるべきことを、伝えなければならない。そこで、上司が極度に部下の顔色をうかがい、恐れてしまうようでは、やはりいけない。

 そういう意味で、上司の側が「嫌われる勇気」を持つべき場面も、確かにあると思います。

 しかし、だからといって、部下をぐいぐい引っ張っていけばいいというものではない。

次ページ 「今のままだったら、どうなると思うかね?」