米グーグルや米アマゾン・ドット・コムなど最先端を走る企業で経済学者の採用が相次ぐ。最新の経済学は様々なビジネス活動を遂行する根拠となり、確実性を高めることが実証されているためだ。

 一方、日本に目を向けてみれば、仕事場でも「直感」や「場当たり的対応」、「劣化コピー」や「根性論」が幅を利かせる。知見が積み重ねられている分野でも、「本当は防げる失敗」が繰り返されているのが実情だ。

 日経ビジネスLIVEは日経BOOKプラスと共同で、7月19日に「気鋭の経済学者が激論『経済学はビジネスに役立つか?』」と題するウェビナーを開催した。登壇したのは、米イェール大学助教授の成田悠輔氏と大阪大学大学院教授の安田洋祐氏。モデレーターを務めたエコノミクスデザイン代表取締役の今井誠氏も交え、経済学をビジネスに取り入れるにはどうすればいいか、企業はどんなメリットを得られるかについて議論した。収録したアーカイブ動画とともにお伝えする。

(構成:森脇早絵、アーカイブ動画は最終ページにあります)

今井誠・エコノミクスデザイン代表取締役(以下、今井氏): 本日は「気鋭の経済学者が激論『経済学はビジネスに役立つか?』」をテーマに、米イェール大学助教授の成田悠輔さんと、大阪大学大学院経済学研究科教授の安田洋祐さんのお2人にご講演いただきます。

 まず、お2人は具体的にどんなビジネスをやっているのでしょうか。

成田悠輔・イェール大学助教授、半熟仮想株式会社代表(以下、成田氏):僕自身はいろいろな事業やプロジェクトを、企業や自治体と手掛けるためのプラットフォームとして、会社が1つあった方がいいかなという気軽な感じで経営しています。

 社名は「半熟仮想」といって、由来は専門用語の「反実仮想」です。現実に反する仮想的な世界、まだ見ぬ世界を思い描くことを表す言葉です。

安田洋祐・大阪大学大学院経済学研究科教授(以下、安田氏):「counterfactual」という英単語の日本語訳ですよね。

成田氏:はい。それだけだと難しくてかっこいいだけなので、「思い描くのは簡単だが、実際には思い描き切れていない」という意味を、「半熟」と掛けています。まだ見ぬ世界みたいなものを、データとか、アルゴリズムとか、ソフトウエアとかのデジタル技術を使って思い描くことに興味があるのです。

 例えば政策やビジネスに、新しい制度とか仕組みとか法律とかを入れた場合に、いったい何が起きるのかを予測する。その予測に基づいて、今、世の中に用いられている制度や政策にとらわれ過ぎずに、ゼロベースで一番よさそうなものは何かを考える。そういう抽象的なことに興味があります。

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 ドメイン(分野)はいろいろで、例えばオンラインショップでの陳列・推薦や価格決定、コンテンツ・広告配信のアルゴリズムを決めるようなビジネス問題から、どの生徒がどの学校に入るか、どの病院がコロナ病床支援金をどれだけ受け取るのかというような政策問題まで、社会的な意思決定・資源配分のためのアルゴリズムのデザインや評価を研究し、事業にもしています。

安田氏:(安田氏が今井氏らと立ち上げた)エコノミクスデザインは、オンライン教育サービス「The Night School」と、企業向けコンサルティングが2本柱です。無駄な広告を特定したり、ESG(環境・社会・企業統治)のコスパを測定したりと、テーマは様々です。データ分析を使った予測精度の改善や、既存サービスの改善もやります。

 経済理論に基づくアイデアも、実はすぐ企業のサービスに使えます。例えば、サービスの方向性を決める際に、経済学の視点でフレームワークを提案すると社内調整が進みやすくなる場合があります。

 より具体的な例として、商品やサービスのレーティングを手掛けるマイベスト(東京・中央)という企業からコンサルティングを受注し、経済学に基づいた新しい評価方法を提案しました。「多数の意見を集約して、集団での意思決定や評価を行う問題」を分析する「社会選択理論」という経済学の応用です。