米国の書店でドラッカー本が見つからない理由

でも、原理的な問いを発した『マネジメントへの挑戦』からは55年、『現代の経営』からは66年もたっています。それでも経営は変わらなかったのはなぜですか。

古田圡:一倉さんは「社長学」にこだわりました。「いい会社とか悪い会社とかはない。あるのは、いい社長と悪い社長である」「電信柱が高いのも、郵便ポストが赤いのも社長の責任だ」と喝破しました。しかし多くの社長は、社員の力を伸ばせば会社は発展すると考え、管理者教育や社員のモチベーション向上のために大枚をはたいてきたのです。問題は社長自身なのに。

佐藤:米国ではドラッカーの著作は、今もあまり読まれません。書店に行っても探すのが大変です。それはなぜかというと、米国は世界一の大国で学ぶ必要がなかったからです。日本も戦後はよく学びましたがバブル期にはドラッカーへの関心が薄れ、バブルが弾けて不況になってから再び読まれるようになった。いい時代に勉強するのは、なかなか難しいですよね。

<span class="fontBold">佐藤等(さとう・ひとし)氏</span><br> 1961年生まれ。札幌市の佐藤等公認会計士事務所所長。90年、公認会計士試験合格後に開業、現在に至る。ドラッカーの研究、企業への実践展開の第一人者として知られ、ドラッカー学会理事を務める。『<a href="https://amzn.to/2Fd0LnK" target="_blank" class="textColRed">ドラッカー教授 組織づくりの原理原則</a>』など著書多数(写真:菊池一郎)
佐藤等(さとう・ひとし)氏
1961年生まれ。札幌市の佐藤等公認会計士事務所所長。90年、公認会計士試験合格後に開業、現在に至る。ドラッカーの研究、企業への実践展開の第一人者として知られ、ドラッカー学会理事を務める。『ドラッカー教授 組織づくりの原理原則』など著書多数(写真:菊池一郎)

そのバブル崩壊からも30年です。そして21世紀になっても、たくさんのビジネス書が出版され、世の経営者たちが読んできたのも事実です。そこはどう考えればいいのでしょう。

佐藤:多くのビジネス書に書いてあるのは、うまくいっている企業の要素をピックアップしたらこうだったという「相関性」です。そういう相関性こそが科学的であり、原理を説くドラッカーは一見、科学的ではない。だから、あまり読まれなかったのでしょう。

 でも、相関性、つまり共通点だけを示されても、それはそれで確かにヒントにはなるけれど、ではうちの会社は何をどうすればいいのかというと実は分からない。企業の様相が並べてあるだけですから。

経営の記事を書いている身として、グサッと来ました…。確かに、成功事例は再現性が低い。いろいろな要因が複合的に絡んだ結果としての成功ですからね。むしろ失敗事例のほうが再現性は高い。何をしなかったから失敗したのかという原因は究極的には一点に絞り込めます。

佐藤:「本質行動学」という領域を開拓・研究している西條剛央さんは、ドラッカーの主張を科学的に証明することに取り組んでいます。その西條さんが、原理の定義をしています。原理とは、それに従っていれば必ず成功するとは限らないが、それに反していれば必ず失敗するものだ、と。原理に従っても、それだけでうまくいったわけではないというのが、常につきまとうのです。

古田圡:そうした意味では、コロナ禍において原理に立ち戻ることは、会社をこれ以上悪くしないためにも、ここから再起を図るためにも必須です。一倉さんは経営理念を実現するための「未来像」が大切だと盛んに言っています。その未来像を実現するために「長期事業計画」を立てる。外部環境の変化に合わせて、商品・サービスをどのように変化・進化させていくか。コロナで今苦しんでいるのは、こうした計画を立てて経営してこなかった会社です。

 当社の指導先のある玩具卸会社は、第2の柱としてアミューズメント施設を運営し、さらに第3の柱として、ぬいぐるみのOEM(相手先ブランドによる生産)事業を立ち上げました。コロナにより、アミューズメントは駄目ですが、ぬいぐるみ事業が絶好調で、今期は過去最高益を出す見込みです。このように先を見据えて未来像をつくっておけば、環境が悪化してもびくともしないわけです。

 一倉さんの言う計画には短期計画、中期計画、長期計画の3つがあります。短期計画は利益計画、商品別販売計画や得意先別販売計画のことで、毎月、実績とのかい離を見ていく。中期計画は5年後を見据えたもの。5年後のために、収益の2本目、3本目をつくっていく。そして長期計画は未来像です。多くの中小企業にはこの中・長期計画がないから、目先のことに追われてしまう。

ドラッカー氏も一倉定氏も経営の根っこを探求した。一倉氏の著書『マネジメントへの挑戦』ではドラッカーとの共振が見て取れて興味深い
ドラッカー氏も一倉定氏も経営の根っこを探求した。一倉氏の著書『マネジメントへの挑戦』ではドラッカーとの共振が見て取れて興味深い

佐藤:本質行動学に「有効な方法は目的と状況に従う」という原理があり、これをドラッカーがいう「事業が成立する3要素―ミッション、取り巻く環境、自社の強み」に当てはめるとコロナにより「取り巻く環境」が激変した。だから当然、取るべき有効な方法も変えなくてはいけない。

 では、どう変えるか。そこは個別論になりますが、状況が「元に戻る」と考えた時点でアウトですね。「元に戻らない」という前提で未来像を描かなくてはならない。ゼロベースで「我々のミッションは何か」を自らに問うのです。まさに原理の出番です。

 さらにドラッカーは、状況の見極め方にも言及している。今回でいえば、コロナ以前の変化なのか、コロナによる変化なのか見極める必要があります。テレワークはコロナ以前から進んでいた。ソーシャルディスタンスはコロナ後ですから、将来なくなるかもしれない、といった具合です。

 変化が起きるのは、私たちの意識が変わったとき。意識が変わらないと変化は起きない。テレワークはいいね、と意識が変わったら、社会の変化が起きる。そういう見極めが大事になっています。

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