岸見:『嫌われる勇気』を読んで、「ここに書いてあることを、私は昔から実践していた」と言う方がときどきいらっしゃいますが、本当だろうかと思うことがあります。

 今回の『ほめるのをやめよう』に、私は「リーダーは部下を叱るべきでない」と書きましたが、それを読んで、「私は他人を叱ったことがない」と主張する人がいても、にわかに信じられないのです。

 私もこうやって偉そうに話していますが、子どもが小さいときによく、私のところに駆けつけてきては、私の眉間のあたりを手で押さえつけたものです。それで、こう言うのです。「最近のお父さんの眉間には、複雑なしわが刻まれるようになった」と。

 子どもはよく観察しています。お父さんは、外では「叱ってはいけない、怒ってはいけない」などと言っているけれど、「今、あなたは怒っていますよ」ということを、さりげなく指摘してくれる。

 そこで、「いやいや、私は怒ってなんかいない」と言ってはいけません。「教えてくれてありがとう」と、返す。

不完全な自分を認めれば、相手も変わる

 部下にも、そう言えばいいのです。例えば、「もう怒鳴らないようにするから」と、宣言しておけば、部下はきっと、「今、怒鳴っていましたよね」と、こっそり教えてくれるようになる。「自分は不完全だけど、このたび『部下を頭ごなしに叱ってはいけない』ということを学んだ。ついては、これから行動、態度を変えていこうと思うので、よろしくお願いします」と、部下に宣言すればいいのです。そうすると、部下はきっと教えてくれるようになります。

 別に、聖人君子にならなくてもいいのです。完璧にできなくても、少しでも変わろうとしている上司の様子を見たときに、部下もきっと「あんなふうに生きたい」と思うでしょう。そして大抵、部下の方がやすやすと実践し、上司が取り残されてしまうのですが。

本当にそうですね。人間は不完全なものであって、それでもやっぱり、少しでも不完全な自分を変えたいという意志を持ち、ささやかでも、少しずつ歩んでいけば、やっぱり変わっていく部分がある。

岸見:そうです。

最初の回でお話しした通り、私も6年前に岸見先生とお話しした後、娘との接し方を変えようと思いました。「“上から目線”で叱るのはやめよう」と努力してきました。

 それでももちろん、“上から目線”で叱ってしまうことはあったのですが、変えようと努力はしていて、そのことで娘との関係は以前よりよくなりました。娘には反抗心というか反発心の強いところがあって、それを受け入れられていなかった私がいた。けれど、そんな自分を変えようとしていることを、少しずつ理解してもらえるようになった。そんなうれしい体験は、最初の回で、お話しした通りです。

岸見:娘さんはきっと、お父さんの変化にすぐに気づかれたと思います。その気づきが、親子関係を改善する大きな力になったのでしょうね。

いや、本当にそうなのです。自分自身で変わろうと思い、少しずつでも実践していくことはとても大事ですね。

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