6月に発売された西口一希氏の書籍『企業の「成長の壁」を突破する改革 顧客起点の経営』に「顧客起点でなければ経営ではない。本書は商売の根幹を問う」との推薦コメントを寄せたのは一橋大学大学院教授の楠木建氏だ。

 事業がBtoCか、BtoBであるかを問わず、すべての企業は顧客に向かって事業を展開し、提供するプロダクトに価値を見いだしてもらうことで経営を成り立たせている。その原理を踏まえれば、企業の都合ではなく顧客を起点に意志決定をしていくことに異論はないはずだ。しかし、多くの経営者は成長の過程で顧客を見失ってしまう。そして、その事態に気付かない――。それが本書の重要な指摘のひとつだ。

 楠木氏と西口氏の対談、第3回は、顧客起点と現場主義の親和性、“多数決”の誤り、さらに企業経営における3つのレベルなど、経営のありかたについて示唆に富む話題が続いた。

楠木建氏(写真左)、西口一希氏(写真右)
楠木建氏(写真左)、西口一希氏(写真右)
楠木 建(くすのき・けん)
一橋ビジネススクール教授
1989年、一橋大学大学院商学研究科修士課程修了、一橋大学商学部専任講師、同助教授、同大学イノベーション研究センター助教授、ボッコーニ大学経営大学院(イタリア・ミラノ)客員教授、一橋大学大学院国際企業戦略研究科准教授を経て、2010年から現職。『ストーリーとしての競争戦略』(東洋経済新報社)ほか著書多数。最新作は『絶対悲観主義』(講談社+α新書)
西口 一希(にしぐち・かずき)
Strategy Partners 代表
P&G出身。ロート製薬執行役員マーケティング本部長、ロクシタンジャポン代表取締役社長、スマートニュース日米マーケティング担当執行役員を経て、現在はコンサルティングや投資活動を行う。2019年、顧客戦略のPDCA支援ツールの提供・導入支援を行うM-Forceを共同創業。『顧客起点マーケティング』(翔泳社)などの著書がある。

意志決定は個人にひも付いている

西口一希氏(以下、西口氏)前回の楠木先生の「カスタマーイン」そして「マーケットアウト」が顧客起点の経営であるとの解説には納得しました。アイリスオーヤマの大山健太郎会長が「ユーザーイン」という言葉を使われていることも、トップにそうした姿勢があると企業全体が顧客起点に向かえるのだと改めて実感しました。

 私もロート製薬で8年ほど、山田邦雄会長と仕事をさせてもらいましたが、もう常にお客様の話をされるんですよね。会長という立場でありながら、いつも顧客のことを見通されていました。

楠木建氏(以下、楠木氏):現場主義、ということですよね。これも顧客起点と同じくらい、皆が重要だと認識して掲げているけれど、なかなか実現できないことだと思います。

西口氏:先生からご覧になって、経営層がしっかりと現場主義を貫いている企業の特徴や共通点はありますか?

楠木氏:常に話が具体的で、意志決定が個人にひも付いている印象があります。現場では、個別の事象が常に動き、日々、具体的な課題が生まれています。例えば小売業なら、現場は店舗です。仮に「ある商品の特定の色はいつも売れ残る」という課題があったとすると、それを決めた人は何をよりどころに決めたのか、妥当性はあるのか、改善できないのかという議論が生まれますよね。その場合、商品の固有名詞や特定の個人名が挙がって解決に至るわけで、部署やチームが総体として動いても、何も変わりません。

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