岸見:ただ、同じ言葉でも、発した側がどういう意味で使っているのかによって、ほめ言葉になることもあれば、ならないこともあります。

 私の娘は、子育てを始めてから、私が書いた本を読み、子どもをほめないように心掛けているようです。ところが、1歳の子どもが初めて立ち上がったとき、思わず「すごいね」と言ってしまった。それで、「これは、ほめ言葉ではないのか」と、娘から質問を受けました。

そのほめ言葉に、下心はないか?

岸見:それに対しては、 「下心があれば、ほめ言葉かもしれないけれど、『初めて立ち上がった』という喜びを子どもと共有する言葉であれば、それは、ほめ言葉にはならない」と答えました。

 また、同じ言葉でも、相手がどう受け止めるかにもよります。だから、本当のところは、自分が発した言葉を、相手がどう感じたかを尋ね、フィードバックを受けなければ、分かりません。

 初めて立ち上がった1歳の子どもから、フィードバックを受けるのは現実には難しいですが、言葉が分かるようになれば、「今、私はあなたに『すごいね』と言ったけれど、その言葉を、どう受け止めましたか?」と尋ねたい。あるいは、「どういう言葉をかけるのがいいと思いますか?」と尋ねたい。そういうことを尋ねていけば、両者の関係は、おのずと変わっていきます。もちろん部下には、このように尋ねてください。

 「『すごいね』は、ほめ言葉だから使ってはいけない」というふうに、しゃくし定規に覚えないことが大事です。

 一人ひとり、受け止め方が違うので、全員に尋ねなければなりません。「今の私の言葉を、あなたはどう受け止めましたか?」と。経営者であれば、社員全員に問いかけ、確認していかなければなりません。こんなことを言うと、「家族だったらできるかもしれないけれど、会社のような組織ではとても無理だ」と反論されますが、原理原則は、どんな対人関係でも同じなのです。

「尋ねる」という、リーダーシップの基本動作

青野:いや、私の個人的な体験からいうと、「一人ひとりに尋ねる」というのは、極めて実践的な手法です。リーダーシップの「基本動作」として、とても重要だと思います。

 私は2006年まで、今とは全然違うリーダーシップを志向していました。私から指示を出し、社員のみんなをぐいぐい引っ張っていこうとしていました。けれど、残念ながら、それがうまくいかず、業績は悪化し、株価は大きく下がり、何より社員の心がどんどん離れて離職率がなんと28%という、どん底を経験しました。信号待ちの車をぼんやり見ながら、「1台、こっちに走ってきて、自分のことをはねてくれないかな」と、思ったこともあったくらい、追い詰められました。

 そこを脱する過程で、リーダーシップのスタイルをがらりと変えて、今に至ります。会社は成長を始め、多様で柔軟な働き方ができる会社として評価されることも増えました。その間のことを振り返ると、私には「社員に助けてもらった」という感覚が非常に強いのですが、自分自身がリーダーとして何より心掛けてきたのは、「尋ねる」ということです。

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