「社員が悪いんじゃねえ。社長のおまえが悪いんだ!」

その社長に対して、一倉さんはどういうときに最も怒ったのでしょう。

健二氏:他人のせいにしたときですね。初対面の社長がポロッと「うちの社員は自分から動かなくて」などと口にすると、大変です。父はすごい剣幕で「社員が悪いんじゃねえ。社長のおまえが悪いんだ!」と叱りつける。どんな状況でも社員のせいにしてはいけない、そこが社長の姿勢として絶対的なものである、と。

電信柱が高いのも、郵便ポストが赤いのも社長の責任」という名言にあるように、会社は社長の力で決まると言ってはばからなかった。コンサルティングの現場でも、ほかの社員には目もくれず、社長だけを厳しく指導したそうですね。

健二氏:そうですね。特に「お客様第一主義」の考え方を社長に理解させようとしていました。社長のいるところは社長室じゃなくて、お客様のところだ。だから社長室もいらない、机もいらないとよく言っていました。ある住宅メーカーの社長が、お客様からのクレームを受けた社員に「そんな小さなクレームはほっといていい」と言ったそうです。その情報が父の耳に入ってからは、「おまえが、ちゃんとクレームを処理するようになったら指導する」と鬼の形相でその社長を突き放していました。

一倉さんのお墓には「経営計画・顧客第一・環境整備」と刻まれているそうですね。

健二氏:もともと父は会社員時代、生産技術に携わっていました。でも、ある会社で生産部長を務めたとき、満足のできる生産体制を築いたけれど、会社の業績が落ちていったそうです。何とかしなければと、父は工場を出て、お客様のところをひたすら回った。回って、回って、回り抜いた。すると、受注がどんどん取れた。その体験を機に父はたくさん持っていた生産技術の本を全部捨てたそうです。生産技術は重要だけれど、最終的にはお客様が買うか買わないか。だから、顧客第一。お客様回りをしない社長には、「おまえは、アナグマ社長だ! 出てこい!」と叱りつけていました。

「アナグマ社長」は一倉さんがよく使った表現ですよね。「電信柱が高いのも~」をはじめ、独特な言い回しが「一倉節」として多くの経営者の心をつかんできました。復刻した『マネジメントへの挑戦』でも、例えば次のあたりは一倉節が全開です。

「過去の事実に立脚しなければ行動できないやつはアホだ」

 「過去の事実に立脚しなければ行動できないやつはアホだ。従来のマネジメント論は、このアホを懸命になってつくろうとしているのである。(中略)われわれは〝実現可能なもの〞を実現させるのではない。こんなことは、だれにもできる。こんなことをするのなら、経営者も経営担当者もいらない。会社が〝生きぬくため〞には、不可能なものを可能なものに変質させること以外にないのである。これをやり遂げるために、経営者が必要であり、経営担当者や専門技術者の存在価値があるのだ」

 「世にいう〝計画に具備すべき条件〞なるものを後生大事に守っていたら、会社をつぶしてしまう。『できもしない計画をたてても仕方がない』とか、『実施がうまくいかないのは、計画にムリがあったからだ』と、自分の怠慢をタナにあげて、罪を計画になすりつけることを教える〝権威者〞があまりにも多すぎる。不可能だ、ムリだ、と思いこんだ瞬間から、人間は努力しなくなる。できないことは、やってもムダだからだ。そして、これが努力不足をカバーし、責任をのがれる口実として利用される。これで自己保身ができるのであるから、怠けものにとっては、こんなありがたいことはないのだ」

 「こうなったら、会社はいったいどうなるというのだ。これは、まったくおそろしいことだ。このようなおそろしい結果をまねくような考え方が、正しい考え方として広く教育され、大手をふってまかり通っているのが現在のすがたなのだ。筆者が、『魂をむしばむ麻薬であり、会社を毒する考え方である」といったことは、いいすぎであろうか』

(「マネジメントへの挑戦」1章「計画は本来机上論である」より)

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