その中で、では誰が長期的な思考を取り戻すのかというと、僕はそれが経営者に求められていると思うのです。放っておいたら自然に起きない、しかし大切なことを見据えて、実現するように全体を率いるのが経営者の力量だとお話ししました。短期的思考を長期的思考に引き戻していくのも、“放っておいたら起こらないことを実現していく”人の役割だと思います。

西口氏:今の2つのご指摘は、私も実務の現場で強く感じてきたことです。経営者の皆さんは、四半期のPL(損益計算書)、年間のPLに加えて中長期の3年や5年のPLを見ていますし、最近よく聞くようになったLTV(ライフタイムバリュー:顧客生涯価値)を指標として取り入れるケースも増えています。

 よくあるパターンは、1年単位のLTVをずっと追っていて、それは変化していないのに、年々業績が苦しくなっているケースです。そうした場合、2年、3年、4年のLTVを計算してみると、確実に下がっているんです。1年くらいは顧客として商品やサービスを利用していただけるけれど、1年たつと利用をやめる、つまり離反する客が増えていく。昔なら、いったん顧客化した方は数年リピートしてくれたかもしれませんが、その方々を今はどんどん失っているわけですね。言い換えると、そういう仕事の仕方になっている。

 このように顧客が短期化する原因はさまざまですが、目立つのは、顧客の意向や要望に耳を傾けず、自社の都合で商品開発や販売施策をどんどん進めてしまうケースです。すると、気付けば顧客が何も言わずに離れていってしまう。BtoBの場合だと「サイレント失注」と表現したりしますね。この傾向は、四半期ごとに見ていては分からないのです。3年、5年単位で大局を見なければいけない、それを誰が担うのかといったら経営者の役割だろう、と思います。

「論理的な確信」だけがよりどころになる

楠木氏:本当に、そうですよね。LTVのような考え方は、長期視点の回復に非常に有効だとは思います。

 ただし、です。今のお話から僕が感じるのは、未来を予想しようという考え方に無理があるということです。今後の見通しと、それを支える何らかのエビデンスがほしい。それがないと、未来を考えられなくなっているようです。前回、経営者の力量の話をしましたが、エビデンスを元にしないと未来を考えられなくなっている人は、経営の力量が足りない二流の経営者だと思います。

 未来は、どうやっても分からないのですから、やってみるしかない。ただ、「論理的な確信」は、事前に得ることができます。AならばBである、BならばCになるという2つ以上のものごとの因果関係についての論理ということですね。これは『ストーリーとしての競争戦略』で強調したかったことなんです。論理的な確信だけが意志決定のよりどころになり、この確信に基づいてストーリーを語ることで、現場を動かしていくことができると思います。

西口氏:AならばB、といった論理のつながりは、たしかにストーリーですね。ロクシタン ジャポンの代表に就任した際、先生の書籍を参考に、振り返るとまさに論理でつながるストーリーを語っていたと思います。

 ロクシタンでは私が就任するまで、顧客が自分で使用するための商品が主軸だったのですが、本部や現場の皆さんへの綿密なヒアリングを経て、周囲の方へのギフト需要に可能性があることが分かりました。自分用の購買がある程度広がり、商品の良さが浸透してきたから、今度は「人に薦めたい」「プレゼントしたい」気持ちが高まってきているだろう、と話していったのです。

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