ソフトパワーの巨大な影響力は軍事力以上

 第2のポイントは「ソフトパワーの自覚的な活用」だ。

 ソニー・ピクチャーズやネットフリックスは海外視聴者にアピールするため、積極的にアニメの合作に投資している。企業にとっては稼ぐのが目的だが、日本にとっては、お金を超えた価値がもたらされる。「ソフトパワー」である。ソフトパワーは1990年代に米ハーバード大学のジョセフ・ナイ教授が作った外交用語である。強制的な軍事力や経済力とは対照的に、文化的財産や価値観からなるソフトパワーは、国際社会の信頼や影響力をもたらす。

 ソフトパワーの観点から考えると、アニメの影響力は巨大だ。その物語の中でスタイリッシュに理想化された日本が描かれることも少なくない。現在、国内外で大人気の『僕のヒーローアカデミア』や『呪術廻戦』は日本の学園が舞台だ。海外のファンはシリーズを消費しながら、作品で描かれる高校生の制服姿などに惹きつけられて日本を好きになる。

東京2020オリンピックに「セーラームーン」の制服をイメージした衣装で登場した新体操ウズベキスタン代表。他の競技でも「ドラゴンボール」などの決めポーズをする選手が注目を集めた。「日本アニメの魅力」が世界で認められた証しである(写真=代表撮影JMPA+真野慎也)
東京2020オリンピックに「セーラームーン」の制服をイメージした衣装で登場した新体操ウズベキスタン代表。他の競技でも「ドラゴンボール」などの決めポーズをする選手が注目を集めた。「日本アニメの魅力」が世界で認められた証しである(写真=代表撮影JMPA+真野慎也)

 近年、ソフトパワーの力は海外の権力者にも認められている。2016年に当時の安倍晋三首相がホワイトハウスを訪問した際、歓迎式典でバラク・オバマ米大統領(当時)はこうスピーチした。

 「米国の若い世代が大好きなカラテ、カラオケ、アニメ、マンガ、絵文字を作った国にお礼を言いたい」

 1980年代の貿易摩擦やジャパンバッシングの時代に、こんな温かい言葉でライバル日本を褒めることは考えられなかった。オバマ元大統領の言葉から、日米関係が好転した要因の1つとしてアニメ、マンガなど日本のポップカルチャーがあったことが分かる。

 いまや、アニメとマンガは日本人だけのものではない。世界共通語、「リンガフランカ」になった。その事実は、東京2020オリンピックが証明した。アニメの決めポーズを取ったり、コスチュームを身に着けたりした海外アスリートが驚くほど数多く見られた。

 そして、アニメで育った世界中の若者が、未来の権力者になる日は遠くない。コロナ禍、地球温暖化、少子高齢化など、各国が協力して取り組むべき課題は多い。いま、この瞬間にも世界の若者は日本のポップカルチャーからアイデアや価値観を貪欲に吸収し、続々と親日家になっている。こうした状況を考えると、アニメは、将来的には重要な外交ツールになっていくはずだ。ミサイルなどよりも、アニメ、マンガ、ゲームは安全保障に直結すると認識すべきだ。

ミサイルよりアニメ。世界をつなぐ「新ジャポニズム」が日本の外交ツールになり得ることを、日本人はもっと自覚し、活用すべきだ(写真=MarbellaStudio/Shutterstock.com)
ミサイルよりアニメ。世界をつなぐ「新ジャポニズム」が日本の外交ツールになり得ることを、日本人はもっと自覚し、活用すべきだ(写真=MarbellaStudio/Shutterstock.com)

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