受け身の姿勢から抜け出して世界戦略を

 第1のポイントは「受け身からの脱却」だ。

 ネットフリックスを含めたストリーミングビジネスは、質より量を優先する。ストリーミング作品の質が悪いという意味ではない。視聴者の心をつかむクオリティーの高い作品が必要なのは当然だが、ビジネスとして加入者数を長期的に維持するためには、1つ、2つのヒットでは十分ではない。観たい作品を観終わると、すぐに契約をキャンセルする加入者が相当いるからだ。キャンセルを防ぐには、いわゆる「バックカタログ(既刊目録)」――できる限りたくさんの映画やシリーズを提供するサービスが求められる。

 日本のアニメは、こうした新しいメディア消費の時代に向いている。最大の理由は、その量である。毎年、他の国では考えられないほどのアニメが作られている。2020年に制作されたアニメの総時間数は、2019年と比べて7000分減ったものの、約10万分だ。ロングランのヒットシリーズの製作本数も、依然として高水準で、「ドラゴンボールZ」は291本、「ONE PIECE」は1000本に近い。このボリューム自体が、ストリーミングサービスにとっては宝物である。約60年の歴史を誇る日本のテレビアニメは、海外のストリーミングサービス各社にとって垂涎(すいぜん)の的だ。

 アニメのグローバルな人気は、日本の業界にとっては幸運と言えるが、問題もある。

 一番は、アニメ業界の構造問題だ。日本のアニメは世界中で受け入れられるようになったが、それを支えるアニメーターの労働環境は以前と変わらず、厳しいままだ。スケジュールが過酷、平均年収は極めて低く、米国のアニメーション業界の半分ほどと言われる。政府が「クールジャパン」戦略を掲げている裏側で、作り手の多くが貧困すれすれで暮らしている現状をどう見るべきか。また、海外への外注増加のせいで、業界の空洞化の恐れも指摘されている。

 海外におけるアニメ人気は、政府のクールジャパン戦略やアニメ会社による独自のビジネス展開の成果というわけではなく、全くの偶然に近い。日本のアニメのほとんどは、日本人のために日本人が作ったものだ。海外の若者が日本のアニメに惹(ひ)かれるようになったのは、リーマン・ショック以降、バブル後の日本人のメンタリティーに彼らの意識が似てきたからである。

 運も実力のうちとはいえ、日本が自ら開拓したというわけではないから、未来はそう明るくないだろう。ネットフリックスなどのアルゴリズムを使ったデータ分析で明らかになったトレンドに受動的に対応している現在の姿勢を続けていけば、いつまでも稼げるわけではない。アニメを作るクリエーターに報酬面でしっかり報い、意欲的な作品が生まれるように業界を維持しつつ、海外からの注文に受け身で対応する形から一歩踏み出して、業界全体でイノベーションに取り組むべきだ。

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