第2に考えられるパターンが、人類の多くが罹患(りかん)する。罹患後、全員が免疫を持つかどうかは定かではありませんが、感染症を仲介する可能性がある人間が一通りかかり、免疫を獲得して治るような病気になる。

 この第2のパターンは、風邪のようなイメージですね。

 風邪を引いたことのない人は、ほぼいないと思います。「オレは風邪なんて引いたことがないぞ」と主張する人も、おそらくかかった認識がないだけで、実際には風邪を引いたことはあるはずです。ほぼすべての人がかかったことがあり、大抵の場合、免疫によって退治されている。それが風邪です。

 新型コロナウイルス感染症が弱毒化すれば、いわゆる風邪と同じように、弱い症状で人類と共存していくことになるかもしれません。

「風邪型」? それとも「エイズ型」?

鈴木:そして、第3のパターンが、エイズのように「エリアによって違う」という形に落ち着くというもの。その地域の政策の方針や、そこに住む人々の認識(意識)の差、衛生状態や医療水準によって差が出て、対策が限定的なエリアでは感染者数や死亡率が高い状態が続く。

つまり、地域差が出る形で、新型コロナウイルス感染症と人類は共存していく、と。

鈴木:そうです。小田中先生の『感染症はぼくらの社会をいかに変えてきたのか』を読んで、エイズについてあらためて学び、新型コロナウイルス感染症とエイズの着地点が近いものになる可能性を感じました。

 しかし、あらためて断っておくと、これはあくまで個人的な仮説で、感染症の専門家によって今後、検証が進んでいく分野です。

 今後の検証が必要という前提で述べさせてもらうと、新型コロナウイルス感染症の特徴は、急性呼吸器症候群MERS、SARSの原因となるコロナウイルスと比較して、前例がないほど広範に広がったこと。これは新型コロナウイルス感染症が、呼吸器の中でも下気道にとどまらず、上気道での増殖と拡散が認められ、拡散が行われやすく、潜伏期間中の人や無症状の人から感染が広がっているところに起因し、拡散の予防を難しくしています。さらに、RNAウイルスという点で変異が入りやすい病原体だと考えられるところなどにおいても、HIVウイルスに近い印象を受ける、ということです。

 先ほど申し上げた通り、マラリアの病原体である原虫のほか、ペストや結核の病原体である細菌などは、罹患したときの症状が顕在化しやすいので、対応しやすいところがあります。しかし、潜伏期間がそれなりに長く、人によって症状が明確に現れるわけではないウイルスというのは、なかなか対応に苦慮する、という気がします。

なるほど、病原体がどのような発症パターンを持つかによっても、パンデミックの収束シナリオが変わるのですね。

 鈴木さんにはこの後も、科学者が感染症史を振り返って得た、新型コロナに関する示唆を、さらに伺っていきます。続きは次回に。

「歴史学の視点から見たとき、感染症は世界をいかに変えてきたのか」

 この問いに歴史学者として答えることを通じて、新型コロナウイルスがぼくらの社会にもたらす変化を予測する材料を読者に提供したい。

 * * * 

<主な内容>

【ペスト】地中海を海上輸送された「黒死病」は、民衆に力を与えた
【天然痘】「消えた感染症」は、医学にイノベーションをもたらした
【コレラ】蒸気機関が運んだ「野蛮な病」は、都市改造を促進した
【インフルエンザ】第一次大戦が拡散した「冬の風物詩」は、ナチス台頭を準備した
【新興感染症】病原体と人類の進化は続く
【COVID-19】「ポスト・コロナの時代」は来るか?

 * * * 

 社会経済史を専門とする歴史学者である著者が「感染症と人間社会の相互作用=人間社会の変化が感染症に影響し、感染症の変化が人間社会に影響する」 という観点から、 過去に感染爆発を起こした代表的な感染症について、体系的に概説します。

 各章末には、それぞれの感染症についてより深く理解するうえで役立つ名著、良書を紹介するブックガイドを付しています。

この記事はシリーズ「Books」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。