京セラ名誉会長の稲盛和夫氏とアリババ創業者のジャック・マー氏。ともに今では、その肉声に触れる機会を得にくい名経営者だ。そんな2人は2008年「日経ビジネス」誌上で対談している。リーマン・ショック後の経済危機を踏まえて語られた言葉には、コロナ禍の今こそ再び耳を傾けたい力強いメッセージが満ちている。

 このたび刊行された、稲盛和夫氏のインタビュー集『稲盛和夫、かく語りき』から抜粋して、お届けする。

 100年に1度と言われる未曽有の金融危機と、世界同時不況への不安。先の見えない混迷の時代に、トップはいかに行動し、社員を導くべきか。日本を代表する哲人経営者、稲盛和夫・京セラ名誉会長と、中国最大のインターネット企業グループを率いる馬雲・アリババ会長兼CEO(最高経営責任者)が、来るべき不況への心構えから人間中心の経営まで、神髄を語り合った。(※肩書は「日経ビジネス」掲載=2008年11月10日号=当時)

人間に対して、自然が猛烈な反省を求めている

稲盛和夫(以下、稲盛):現在の金融危機(編集部注:2008年のリーマン・ショック)は人間に対して、自然が、あるいは神が、猛烈な反省を求めているのだと思います。「もっと豊かになりたい」「もっと便利な世の中にしたい」という人間の欲望が科学技術の発展を促し、近代の文明社会を築き上げました。

 しかし、そんなに欲張ってばかりではどうなるか。「満つれば欠ける」というのが、やはり自然の道理です。欲望が膨れ上がって満つれば、欠けるのは当然。それを見せつけたのが今回の危機だと思います。

 今こそ人間は「足るを知る」という謙虚さを学ばなければなりません。企業経営者は、常に謙虚な姿勢をもって経営に当たるべきです。現在の社会現象は、そういうことを教えてくれているのだと思います。

<span class="fontBold">稲盛 和夫(いなもり・かずお)</span><br> 1932年鹿児島県生まれ。鹿児島大学工学部卒業。59年京都セラミック(現京セラ)を設立。社長、会長を経て、97年から名誉会長。一方、84年に第二電電企画(現 KDDI)を設立し、2001年から最高顧問。また10年、日本航空会長に就任。2年間でV字回復を成し遂げ、12年から名誉会長、15年名誉顧問。中小企業経営者のための 「盛和塾」の塾長として、後進の育成にも心血を注いできた。1984年には稲盛財団を設立し、「京都賞」を創設。人類、社会の進歩発展に貢献した人たちを顕彰する(写真/山田哲也/「日経ビジネス」2008年11月10日号に掲載のカット)
稲盛 和夫(いなもり・かずお)
1932年鹿児島県生まれ。鹿児島大学工学部卒業。59年京都セラミック(現京セラ)を設立。社長、会長を経て、97年から名誉会長。一方、84年に第二電電企画(現 KDDI)を設立し、2001年から最高顧問。また10年、日本航空会長に就任。2年間でV字回復を成し遂げ、12年から名誉会長、15年名誉顧問。中小企業経営者のための 「盛和塾」の塾長として、後進の育成にも心血を注いできた。1984年には稲盛財団を設立し、「京都賞」を創設。人類、社会の進歩発展に貢献した人たちを顕彰する(写真/山田哲也/「日経ビジネス」2008年11月10日号に掲載のカット)

馬雲(ジャック・マー;以下、馬):稲盛さんのお考えに同感です。私は昨年(編集部注:2007年)から、世の中はまたもや健忘症に陥ったのではないかと感じていました。私たちは1997〜98年にアジア経済危機を経験し、2001~02年にはインターネットバブルの崩壊に巻き込まれました。ところが昨年の今頃になると、こうした経験はすっかり忘れ去られたかのようでした。

 私の周囲でも、多くの人が「儲かって仕方がない」とか「株に投資してどれだけ儲ける」などという話ばかりしていた。こんな状態が正常であるはずがありません。私は強い危機感を覚え、昨年末から社員に対して「厳しい冬がやってくる」「冬への備えを始めよう」と呼びかけました。

続きを読む 2/4 100年に1度の危機の経験はアリババに飛躍をもたらす

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