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つまり、「治った」という結果のほうが先にあって、「血清を入れたから治った」という因果関係が明確になるのはその後なのですね。だから、「正しい因果関係」が分かる前に、「有効な解決策」が出てきてしまう。

鈴木:そうですね。ただ、この場合の「因果関係」は、薬理学における「作用機序」と言い換えたほうがいいように思いますが。

 大がかりな実験をする前に、予備実験で可能性を限定していくというのは、サイエンスにおいて大事なことです。1つの実験結果だけで、何かを論じることが難しかったとしても、次の実験で結果が出る可能性を高めるため、予備実験をするということはあります。

 私たちは2005年に、世界初のユーグレナの食用屋外大量培養に成功しました。このときは、最初は小さな試験管で実現できたことを、最後は大きなプールで再現しました。しかし、単純に規模を大きくすれば再現できる、というものではありません。だから、小さな実験のなかで、いくつかの条件を変えてみて、規模を大きくしたときにシビアに影響してきそうな条件と、それほどでもない条件がどれか、当たりをつけるわけです。

コロナ対応の「不完全さ」を許容しよう

 血清での治療にしても、全員が1日で治ったとか、長く伏せっていた人が、いきなり飛び上がって走り始めました、なんていう劇的な変化があれば分かりやすいですが、現実にはそんなことはありません。

 けれど、最初の3例で、全員の症状がまったく良くなりませんでした、ということであれば、その治療法については、優先順位を見直したりして、時間などがひっ迫している中では、わざわざ時間をかけて研究しなくていい。などと、状況に応じて判断することができるのならば、そのような結果に終わった実験にも意味はある。

 そう考えると、社会全体に与えるインパクトの大きさや、求められるスピードを考えたとき、因果の不完全さというのは、許容されるべきことも多いのではないかと思います。特に、新型コロナウイルス感染症への対応については、関連する人へのインフォームドコンセントなどについて可能な限り配慮しながら、予備実験的なトライ&エラーを積極的にやっていくべきだと、私は考えています。

「歴史学の視点から見たとき、感染症は世界をいかに変えてきたのか」

 この問いに歴史学者として答えることを通じて、新型コロナウイルスがぼくらの社会にもたらす変化を予測する材料を読者に提供したい。

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<主な内容>

【ペスト】地中海を海上輸送された「黒死病」は、民衆に力を与えた
【天然痘】「消えた感染症」は、医学にイノベーションをもたらした
【コレラ】蒸気機関が運んだ「野蛮な病」は、都市改造を促進した
【インフルエンザ】第一次大戦が拡散した「冬の風物詩」は、ナチス台頭を準備した
【新興感染症】病原体と人類の進化は続く
【COVID-19】「ポスト・コロナの時代」は来るか?

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 社会経済史を専門とする歴史学者である著者が「感染症と人間社会の相互作用=人間社会の変化が感染症に影響し、感染症の変化が人間社会に影響する」 という観点から、 過去に感染爆発を起こした代表的な感染症について、体系的に概説します。

 各章末には、それぞれの感染症についてより深く理解するうえで役立つ名著、良書を紹介するブックガイドを付しています。