故・一倉定(いちくら・さだむ)氏といえば赤字会社を次々に立て直した伝説の経営コンサルタントだ。その門下生には、ユニ・チャーム創業者の高原慶一朗氏やドトールコーヒー創業者の鳥羽博道氏など、錚々たる面々が名を連ねる。ファンは多く、ファーストリテイリング会長兼社長の柳井正氏も一倉氏に思想を学んできた経営者の1人だ。

 なぜ、これほどまでに多くの社長の支持を集めたのか。一倉氏の謦咳(けいがい)に接した社長たちにその理由を尋ねると「後にも先にも、あれほど強烈に『社長の生き方』を指し示した人はいない」と口をそろえる。1963年に独立してコンサルタント稼業を始めた一倉氏は、99年に80歳で逝去するまで、日本中をくまなく行脚。大中小1万社の社長を、まるで小学生をしかりつけるように厳しく指導し、「社長の教祖」と称された。

炎のような情熱で赤字企業の経営を指導した一倉定氏
炎のような情熱で赤字企業の経営を指導した一倉定氏

 日経BPではその一倉氏の初期の書籍『マネジメントへの挑戦』をこのほど復刻した。初版は1965年で、今から55年も前。コンサルタントとして独立した直後に執筆されたものだ。マネジメントへの「挑戦」という、まさに挑戦的な言葉を一倉氏が使ったのは、当時の日本企業の経営に対する憤りからだ。

 半世紀以上前の本を読んでも意味があるのかと思う人も少なくないだろう。しかしいったん読み始めると、一倉氏の経営に対する鬼気迫る情熱に圧倒され、引き込まれていく。空理空論ではなく、現実の経営に役立つ「実践」を徹底的に追求している。その言葉は驚くほど普遍的な内容で、時代を越えて現代の我々にも迫ってくる。本稿では『マネジメントへの挑戦』の一部を抜粋して紹介したい。

 「これは挑戦の書であり、反逆の書である。ドロドロによごれた現実のなかで、汗と油とドロにまみれながら、真実を求めて苦しみもがいてきた一個の人間の、“きれい事のマネジメント論”への抗議なのである。

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