(写真=PIXTA)
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 大企業からスタートアップまで200社を超える企業の経営相談に応じてきた西口一希氏が新たに、書籍『企業の「成長の壁」を突破する改革 顧客起点の経営』を出版した。昨年、日経ビジネス本誌および電子版に掲載した連載をベースにしながら大幅に加筆し、改めて構成した1冊だ。

 西口氏はロート製薬の「肌ラボ」、ロクシタンジャポン、スマートニュースなど、事業会社で多岐にわたる商品やサービスを成長させてきた。その経験をもとに、BtoB、BtoCを問わず、さまざまな企業の経営を支援してきた結果、「あらゆる企業がぶつかる『事業成長の壁』『収益性の壁』を乗り越えるための鍵が見えてきた」と言う。その鍵とは「顧客理解」だ。

 今回は、西口氏へのインタビュー第3回をお届けする。多くの経営者がドラッカーをはじめとする経営論を理解しながらも、実際の経営には落とし込めていない理由として、西口氏は「戦争の戦略論を用いてしまう、顧客の定義がばらばら、財務諸表とお客様との関係がわかっていない」という3つを提示する。

(聞き手は日経ビジネス編集部・村上富美)

西口 一希(にしぐち・かずき)
西口 一希(にしぐち・かずき)
Strategy Partners 代表。P&G出身。ロート製薬執行役員マーケティング本部長、ロクシタンジャポン代表取締役社長、スマートニュース日米マーケティング担当執行役員を経て、現在はコンサルティングや投資活動を行う。2019年、顧客戦略のPDCA支援ツールの提供・導入支援を行うM-Forceを共同創業。著書『たった一人の分析から事業は成長する 実践 顧客起点マーケティング』(翔泳社)は韓国語版、台湾語版、英語版も出版。(写真:北山宏一)

戦争の「戦略論」を経営に適用するのは正しいか

前回は、顧客を定義することの重要性、そして書籍 『顧客起点の経営』で紹介するフレームワークのような、経営と現場をつなぐ共通基盤が、経営の地図の役目を果たすというお話をうかがいました。顧客起点の経営への改革、つまりばらばらな顧客を思い浮かべていた経営陣から現場までが、統一した顧客像を描けるようになるまでに、どのくらいの期間がかかるのでしょうか。

西口一希氏(以下、西口氏):組織全体が一丸となり顧客に向き合って動けるようになるには、早くて半年ほどかかります。現状分析から始めて、実際にマーケット全体を可視化し、経営や現場の各部門で「お客様」と言っているのが誰なのかが一致した上でアクションを選択・実行できる状況になるまで、ということですね。

 現在の売り上げはどの顧客からいただいているのか、新しい顧客はなぜ購入してくれたのか。逆にどのような顧客が離反してしまっていて、その理由は何か、どうすれば復帰するのか。そういった、行動とその背景にある心理までが各セグメントごとに見えてくると、「このような新しい施策が必要だ」「いや、これまでやってきたこの施策は意味はないので止めたほうがよい」、などと皆の意見が一致してきます。

 比較的小さい組織や、そもそもトップに「顧客起点の経営に変えていく」意志があってコミットメントが強ければ、半年程度で組織全体が顧客起点で動けるようになります。

 一方、規模が大きい企業や長い歴史のある企業などは、2年ほどかかってしまうこともあります。各本部や各部門がそれぞれ良かれと思うことをずっと続けてきて今があるので、心理的な抵抗も起こります。皆さんが主体となり、納得感を持って進めていただくために、小さくテストをしながら少しずつ成果を積み上げていくような形をとったりしますね。

顧客理解のためには、当然ながら顧客の声を聞くことが重要になると思いますが、具体的に顧客の声を聞くとどういったメリットがあるのでしょうか。

西口氏:企業側からすると、自社の売り上げを支えてくれる顧客は、自社の商品・サービスの“この部分”が評価されていると自分たちで想定していると思います。しかしお客様の声を聞くと、企業の想定とは全く違う便益と独自性を見いだし、評価しているという例はよくあります。その状況を知って初めて、自社のプロダクトにまだポテンシャルが残っていることに気付くのです。

本書では、顧客を5層に分類し(5seg:ファイブセグズ)、各層で20人ずつぐらいに話を聞くことを提唱していますね。

西口氏:はい、そのくらいの規模で、愚直に聞いていくことが大事です。他社でなく当社の商品を買ってくれる理由は何ですか、と問い続ける。20人ほどに聞くと、確実に新しい発見があります。想定していた内容も確認できますが、ほかに「そんなところが評価されていたのか」と驚くような理由も結構見つかるのです。それを拡大することで、新しい顧客に接触し、価値を感じていただく展開に結び付けることもできます。

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