外資系企業では、経営と現場の関係は違うのでしょうか?
西口氏:徹底した成果主義を掲げる外資系では、現場の社員が「経営層より顧客を理解している」と考える場合、経営層に言われたとおりに……とはなりません。例えば、自分が顧客と接している経験や肌感と、経営が旗振りする内容がかみ合わず「納得できない」と感じたら、経営に対して「間違っている」と躊躇(ちゅうちょ)せず意見する。なぜなら外資系の雇用関係は往々にして日系よりシビアで、特に営業担当者は、給与額や雇用の継続にパフォーマンス(営業成績)が連動していることが多いからです。
成果を上げられなければ昇給もせず、下手をすると失職する可能性もある。経営層に従った結果、自身の業績が振るわずに解雇されては困るので、たとえ上から言われたことでも、違うと思えば進言せざるを得ない状況にあるのです。すべての会社に当てはまるわけではありませんが、経営と現場がぶつかることで、結果として顧客を理解していない経営陣の方針は却下され、顧客をよく知る現場の考えが具現化し、ひいては顧客にとっての価値が増していきます。
ですが短期的な成果を求められるため、安売りしてでも短期的な結果を出すなど、目先の利益に引っ張られてしまう傾向はあります。それは決して、顧客理解に基づいた顧客起点の経営とは言えません。
一方、日系企業はそこまで短期的な成果を求めませんよね。基本的に部門や個人にそこまで大きな責任を負わせず、社員との長期的な信頼関係と雇用関係を重視しています。安定して働けるという利点はありますが、半面、外資系に比べて、経営の提言を疑ったり検証しようとしたりする姿勢は生まれにくいところがあります。
このため、経営から方針や戦略、施策が提案されると、良くも悪くも素直に「まずはやってみよう」と従っていく。違和感を覚えたとしても、特に進言せず、軋轢(あつれき)を生まないほうが中長期的にはよいという判断をしがちです。経営陣としては、現場が何の反論や意見もせずに従うので、現場の肌感と合っているのだと思いますよね。そしてうまくいかなくても、何がどう悪かったのかはわからないままに終わってしまう。
そうした状況を、経営陣は問題視していないのでしょうか。
西口氏:「現場との連携が薄い」「現場の本音がわからない」と悩まれる経営者の方は少なくありません。「何とかしたい」と思っておられる方もたくさんいらっしゃいます。と言っても、現場も別に経営陣に背を向けているわけではありません。ただ、違和感を覚えても進言するだけの動機がないし、経営層も現場から意見を引き出す機会をつくれていない、という状況があるのです。
やはり経営と現場が、西口さんが言う「地図」、つまり共通基盤を持つことで、取り組むべきことも明確になりそうですね。次回は、顧客理解を進めるための顧客調査について聞かせてください。
(第3回に続きます)
会社や事業が成長し続けるために、一番必要なことは何か──。
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ベストセラー『たった一人の分析から事業は成長する 実践 顧客起点マーケティング』(翔泳社)から3年。ロート製薬「肌ラボ」、ロクシタンジャポン、スマートニュースなど、あらゆる商品やサービスを売り伸ばし、200社を超す企業の経営者に助言してきた西口一希氏による経営論。経営と現場が一体となって顧客に向き合い、事業成長につなげるための必読書です。
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■西口一希氏が語る「顧客起点の経営」 第1回
■日程:2022年7月5日(火)19:00~20:00(予定)
■テーマ:なぜ企業の成長は止まるのか? すべてのカギを握る顧客理解
■講師:『顧客起点の経営』著者・Strategy Partners代表 西口一希氏

■西口一希氏が語る「顧客起点の経営」 第2回
■日程:2022年7月12日(火)19:00~20:00(予定)
■テーマ:顧客を分析、ニーズに対応して急成長 ミスミ「meviy(メビ―)」事業に学ぶ
■講師:『顧客起点の経営』著者・Strategy Partners代表 西口一希氏、ミスミグループ本社 常務執行役員meviy事業担当・ID企業体社長 吉田光伸氏

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