ディー・エヌ・エー(DeNA)と聞けば、スマートフォンゲームなどデジタル領域での事業を連想する人が多いかもしれない。だが昨今の同社は、スポーツ事業にも力を注いでいる。2011年にプロ野球球団「横浜ベイスターズ」の経営権をDeNAが取得し、現在の「横浜DeNAベイスターズ」(以下、ベイスターズ)へ。これを皮切りにスポーツ事業へ参入し、13年に陸上チーム(「DeNA Athletics Elite」)を創設。18年にはBリーグに所属するプロバスケットボールクラブ「川崎ブレイブサンダース」(以下、ブレイブサンダース)の運営を東芝から承継、さらに21年4月からはプロサッカークラブ「スポーツクラブ相模原」(以下、SC相模原)の株式19%を取得し、経営に参画している。
事業としても好調だ。ベイスターズは11年に110万人台だった年間動員数が、新型コロナウイルス禍前の19年には球団史上初の228万人を突破。座席稼働率は98.9%を実現した。ブレイブサンダースは承継前の1試合平均来場者数がBリーグ7位だった。承継3年目の20~21年シーズンではコロナ禍の影響を受けながらも1位へと上りつめている。
22年5月25日には、スポーツ事業を「DeNA SPORTS GROUP」と名付け、「スポーツの世界だけに閉じることなく街に届けて賑わいをもたらし、新しいまちづくりの中心となっていく」ことを目指すと宣言した。DeNAにおけるスポーツ事業の狙いは何なのか。そして、DeNA流のマネジメントは、これまでのプロスポーツチーム運営にどのような変革を起こしたのか。ベイスターズの佐合勇規氏にブレイブサンダースの藤掛直人氏、そしてSC相模原の黒田知誠氏と、3社のマーケティングおよび広報責任者が、変革の歴史と今後の展望を語った。

横浜DeNAベイスターズの誕生は2011年のオフシーズン。16年には株式会社横浜スタジアムを友好的TOB(株式公開買い付け)にて取得し球団と球場の一体経営に乗り出し、同年から球団単体での業績の黒字化に成功している。ベイスターズの成功は、DeNAのスポーツ事業を促進し、18年のバスケットボール、21年のサッカー参入につながった。だが、それぞれの競技へ参入した狙いには違いがあった。

佐合勇規氏(以下、佐合氏):ベイスターズ取得の目的は、新たにスポーツ事業へ取り組むことはもちろんですが、もともとはスマホゲームがメインの会社であったDeNAが、「社会課題の解決に取り組む会社」として認知を高めることも重要なポイントでした。プロ野球参入を表明した背景としては、現状12チームしかない限られたアセットということでインパクトも大きいですし、メディアなどで最も取り上げられるスポーツであることもポイントでした。
藤掛直人(以下、藤掛氏):バスケットボールへの参入は状況が違い、単体黒字や球場一体経営といったベイスターズの成功事例が既にあったので、まずはバスケに限らず、新しいスポーツへ進出する検討からスタートしました。その際には認知度の向上というよりも、純粋にスポーツビジネスとして単体での成功と、あとはアリーナの建設を含めた「まちづくり」を前提に見据えていました。
バスケを選んだポイントはいろいろあるのですが、本来のポテンシャルと現状の乖離(かいり)が大きく、伸びしろがあると考えたことが一番です。16年からBリーグがスタートしたばかりで時期的に勢いがあり、成長確度が高いと判断しました。国内のスポーツ人口で、バスケはサッカーに次ぐ2番目と人気が高く、中高生の部活動では1番多い。ポテンシャルがある状況に比べて、プロスポーツとしてはまだそこまで浸透しておらず、やり方次第で大きく成長させることができると考えました。
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