近年、話題になった倒産劇から普遍の失敗の法則を探る『なぜ倒産 令和・粉飾編 ― 破綻18社に学ぶ失敗の法則』が刊行された。刊行に合わせて、ある会社の実例から教訓を引き出す。

 前回、前々回に引き続き、日経ビジネスのある編集部員が個人的によく知る、新興のファブレスメーカー、Xサイエンス社(仮名)の倒産劇を紹介する。社長のXさん(仮名)は、会社の破産と同時に自己破産し、貯金もマイホームも失った。しかし、企業再生の専門家によれば「自己破産する必要は100%なかった」という。なぜか?

※ 前々回:売上高が伸びていたのに倒産。某メーカーが破産に至った分岐点
※ 前回:社長が語った倒産劇。なぜ一足飛びに「破産」を選んでしまったか?

 前回前々回と、記者の私が個人的に知るファブレスメーカーXサイエンス社の倒産劇と、経営者Xさんの自己破産について紹介してきました。

 なぜ、私がこのような記事を書きたかったかというと、経営破綻や企業再生を取材するなかで、専門家から見て「破産する必要がないのに破産してしまう会社」や「自己破産する必要がないのに自己破産してしまう社長」に出会うことがあり、残念に思うからです。Xサイエンス社のケースもそうでした。会社や個人が特定されるのを避けるため、取材対象者と私自身の名前を伏せ、事実関係の一部を変えてご紹介することを、引き続きご了承ください。

 前回、破産前後のXさんについてお伝えしました。売り上げは伸びていたものの、大口の仕入れ先からの供給が途絶えて、会社を破産させる決意をしたXさん。その後のエピソードというと、例えば……。

 取引先に迷惑をかけないように、仕入れ先の工場と得意先の国内大手メーカーが直接、取引できるように両社をつないだこと。ご自身は現金99万円を残して個人資産のほぼすべてを失ったこと。Xサイエンス社に残された資産をできるだけ高く売る「換価作業」に約3カ月間、力を尽くしたこと。そのかいあって、Xサイエンス社の破産弁済率が30%を超え、破産にしては債権者に多くの弁済ができたこと。換価作業を終えた後、自責の念からうつ状態に陥り、引きこもってしまったこと……。

 これらのエピソードのなかに「それなら会社を破産させなくてもよかったのではないか」と、専門家たちが注目したポイントが2点あります。皆さまは、どう思われるでしょうか。

倒産した後も人生は続く。再起して起業する経営者もいる(写真:PIXTA)
倒産した後も人生は続く。再起して起業する経営者もいる(写真:PIXTA)

次ページ 売り上げは伸びていたが、供給が途絶えた