親身になるほどみんなが引いていく……

佐渡島:リーダー、チーム、メンバーの強みを引き出す、という順番で学んでいっていて、学んでいくときに、『宇宙兄弟』を例にできると、僕自身も『宇宙兄弟』が本当にいい作品だということを改めて実感できるし、それを世間の人も感じてくれると二重にうれしい、という感じなんですよね。

 とはいえ、最初はやっぱり、リーダーとかチームについては頭では分かっているけれど、本にも寄稿させていただいた通り、社内の組織づくりは理想通りに進められない。そんな悩みを周りの人に言っていたら、曽和(利光、人材研究所代表)さんに「佐渡島君の悩みはたぶんFFSが解決してくれるね」と言われて。とにかく診断受けてみな、と。

 それで受けてみたら、僕はFFS理論でいう5つの因子の中で「凝縮性」というのがすごく強い(数値が高い)んですよね。しかも、「保全性」がほとんどない。(※佐渡島さんのFFS理論の数値は「凝縮性:17 受容性:15 弁別性:14 拡散性:11 保全性:2」だそうです)

日本人の多数派は、「受容性」「保全性」が高くて、「凝縮性」が高い人は珍しいそうですから、両方を兼ね備えたら相当な少数派ですね。

佐渡島:そう。だから、僕が「こうすると幸せだろう」と思うことを他人にすると、幸せじゃない、ということが明確に分かったんですよ。

あはは(笑)。

佐渡島:僕からするとうれしいであろう声掛けをしたつもりが、面談したら、「プレッシャーを掛けられ過ぎてやる気がなくなった」みたいなことがすごくよく起きていた。笑い事じゃないですよ(笑)。僕が丁寧に時間をかければかけるほど、僕が親身になればなるほど、うまくいかないんですから。

なるほど。凝縮性が高い佐渡島さんは「あるべき姿」へのこだわりが持ち味。それを前面に出すと、他の因子が高い人には「こうあるべきだ。だよな、だよな? ん? 違うのか?」と迫ってくるように見えて、「怖いよ、怖いよ」となっていく……そんな感じですかね。

佐渡島:それで、FFS理論で、それぞれの因子が高い人にとって、素直に「重要だ」と思うところを意識したフィードバックをしてみました。保全性が高い人なら「順序よく積み重ね」とか、受容性が高い人なら「君がいて本当に助かっている」とかですね。すると、すっと会話が通じるということが実際に起きて。

効果がありましたか。

佐渡島:ありました。それで、講習を1回受けただけだと理解が浅いかもと思い2回目を受けて、3回目を受けて自分の中の勘違いを解いていくと、かなり人のことが深く理解できるようになってくる。

ここでも「知識の壁」へ繰り返しタッチが。

必要なのは時間ではなくて、仮説のためのフレーム

佐渡島:例えば人と1時間、2時間じっくり話すと、今度は情報量が多過ぎて整理ができないんですよね。

それはあるかもしれません。

佐渡島:必要なのは時間ではなくて、仮説じゃないかと思うんです。何らかのフレームを援用して、「この人ってこういう人かな」と思って聞くと、「やっぱり」とか、「あれ? 外れた」とか、その仮説との距離でその人への理解が深まる。

どれくらい当たっていた、外れていた、がはっきり分かるから。

佐渡島:何らかの、人を理解するためのフレームが必要だというときに、例えば星座とか血液型とかもあるじゃないですか。星座とか血液型って、それが正しいということじゃなくて、人の分類の……。

なるほど、あれもフレームなんですね。

佐渡島:そう。フレームとしてはいいかもしれません。でも「何月に生まれたからこのフレーム」というのはちょっと無理がある。設計された問いがあって、どっちが好ましいですかというふうにその人が答えて、意思決定をしたところから出てきているデータでそのフレームが示されているほうが、ずっと確度も高いし結果が分かりやすくなる。そういうことだと思います。

で、「凝縮性が」「拡散性が」と覚えるよりも、私みたいな門外漢には「あ、ブライアンとヒビトみたいな人のことね」と理解できるほうがずっと取っつきがいい。これはマンガならではの力だと思います。しかも再読性が高いので、いつの間にか「この人はアズマに似ているな、あ、凝縮性が高いのかも」と、まずぱっと絵が浮かび、性格を描写したストーリーと分析を思い出せるようになりました。

佐渡島:そうそう、それが「知識の壁」に何度も気軽にアプローチできるマンガの力です。

次ページ 作家はなぜ「クリエイター」と呼ばれるのか