日経ビジネスの取材に対し、2019年時点で「2020年にも未曾有の危機が到来する」と予言していた世界的な投資家のジム・ロジャーズ氏。5月25日に日経BPから出版した新刊『危機の時代 伝説の投資家が語る経済とマネーの未来』では、大恐慌からブラックマンデー、リーマン・ショック、新型コロナウイルスまで歴史を振り返りつつ、繰り返される危機の本質とどのように行動すべきかを詳細に読み解いている。
今回は6月11日(木)に開催するロジャーズ氏が登壇するウェブセミナー(記事の最後に開催概要)のテーマ「危機の時代をどう生きるべきか」に合わせて、危機が起きている中で投資をする際にロジャーズ氏が重視している考え方を紹介する。
新型コロナウイルスの感染が世界的に拡大したことを受けて、失業や企業倒産が増えている。各国政府は大規模な財政出動による景気対策に力を入れるが、実体経済の悪化は避けられない情勢だ。経済危機の深刻化が懸念される中、ジム・ロジャーズ氏は投資する際に何を重視しているのか。著書『危機の時代』に登場するさまざまな言葉からロジャーズ氏の思考法を読み解く。
「危機が起き、経済が崩壊しても、必ず復活する──。私はそれを自らの経験と読書から学んだ。とりわけ実際に危機が起きた際にこそ、過去の歴史から学ぶことが大事だ。投資をしていると、何かが変化していることが分かる。問題は、ほとんどの人が過去の歴史をきちんと見ていないことだ。歴史を振り返れば、今起きていることが何であるかが、きっと見えてくることだろう」
ロジャーズ氏がとりわけ重視するのは歴史に学ぶことだ。米イエール大学で歴史学を専攻した同氏は、米作家のマーク・トウェインが語ったように「歴史は同じようには繰り返さないが、韻(いん)を踏む」と考えている。世界は常に変化しているが、歴史を振り返るとさまざまな共通点があるとする。
投資家としてロジャーズ氏は、1971年のニクソン・ショック、1987年のブラックマンデー、2008年のリーマン・ショックなど、さまざまな危機を経験してきた。さらに古代ギリシャ・ローマから中国の歴代王朝、スペインやポルトガルが覇権を握った大航海時代、大英帝国、近現代の歴史にも詳しい。自らの経験と膨大な読書から学んだ歴史から得られる教訓を投資に役立てているという。
例えば、1929年の米ウォール街における株価暴落に始まる世界恐慌。大恐慌の時代には、多くの人々が絶望して株を投げ売りし、その後、株式市場の長期的な低迷が続いた。
「歴史は韻を踏む」と語るジム・ロジャーズ氏(写真:的野 弘路)
「しかしながら大恐慌で稼いだ人がいなかったわけではない。世界には危機の中でお金を稼ぐ人が常にいる」。ロジャーズ氏はこう強調する。例えば、1922年に設立された米名門投資会社のアレン&カンパニー。同社を率いていたチャーリー・アレン氏は、大恐慌後に紙くず同然にまで値下がりした銘柄の中から有望な企業を見つけて投資することで、巨額の利益を得たという。
ほかにも大恐慌後の1930年代に1株1ドル以下の上場企業100社あまりの株式を買い、その後生き残った企業の株価が大幅に上がって莫大な利益を手にしたジョン・テンプルトン氏という伝説的な投資家もいた。「みんなが売るタイミングで買い、みんなが買うタイミングで売る」。そんな“逆張り”の投資手法がテンプルトン氏の持ち味だった。
成功した投資家は危機の際にチャンスを見つけている
「多くの成功した投資家は、危機のさなかにチャンスを見つけている。ほかの人と同じことを考えず、自らの考えに沿って投資することで道を切り開き、成功を手にした」
こう語るロジャーズ氏自身も、危機の際などに大幅に値下がりして、割安になっている対象を見つけて投資する手法を得意としている。
「他の人が絶望し、何でも手放そうとするときに、うまくいきそうな対象を見つけて投資する。これは基本的な原則だ。危機の最中であろうと、危機の後であろうと、危機の前であろうと、私はこうしたスタンスで投資を続けている」
ロジャーズ氏が投資する対象はもちろん株式や債券にとどまらない。金、銀、農産物を含むコモディティー(商品)、米ドルなどの通貨も投資の対象になる。しかし危機の際には、通常とは違う動きをすることに気を付ける必要があるという。
「商品、株、通貨など、さまざまな投資の対象となるものがある。危機や災害時に成功する投資は、好況時とは異なるものだ。逆回転し始めた時にこそさまざまなチャンスが生まれるので、優れた投資家は、不況は景気の正常な循環の一部だと考える」
好況が長く続けば、必ず不況がやってくる。「危機は一定の頻度で繰り返されるものだ」とロジャーズ氏は強調する。だから好況がずっと続くと思ったりせずに、次に危機がやってくるはずだと考えた方がいい。そして危機の際にこそ、歴史から学んで投資することが大事だという。過去の同じような危機の際に、何が起き、人々がどう行動したのかを知っていれば、投資に有利になるのは言うまでもない。
もちろん危機の際の投資で成功するためには、好況時から備えをしておくことが重要だとロジャーズ氏は指摘する。グローバルな経済環境の変化や異変を、“兆し”の段階から見つけるためには、日ごろからリサーチをしておくことが欠かせないからだ。
変化が起こっている場所で安いものに投資する
「私は世界や自分自身について十分に学び、いつも危機が起きたらどのように行動するかを考えている。投資で成功するために必要なリサーチを続け、自分が知っているものに留まり、変化が起こっている場所で安いものに投資する」
危機の際に多くの投資家が悩むのが、価値が下がって含み損が出ている資産を処分すべきか、保有し続けて反転を待つかだ。例えば、不動産を所有している人は、売るかどうか悩むことだろう。ロジャーズ氏の考えは明快だ。
「危機の際に、不動産は保有すべきなのかという質問もよく受ける。すでに不動産を保有している場合、重要なのは、損が出ているものを持ち続けるよりも、早く売却した方がいいということだ。間違いをそのままにすべきでない。現実を受け入れ、それに合わせる形で行動しなければならない」
明らかに投資に失敗したことが分かった場合は、躊躇せずに早く損切りすべきだとロジャーズ氏は考えている。
「投資家にとって、危機は素晴らしい機会だ。自分自身を鍛えることを学ぶことができる。私はさまざまなことを学んだ。私は危機を知った時に、自分に何ができるのかをいつも考える。どうすれば幸せになれるか、と。危機が起きると、『ああ、ここにチャンスがある』と私は考えるが、ほとんどの人はそうは思わない」
危機の際に投資で稼ぐことを考えるのは不謹慎だという指摘も当然あることだろう。しかし投資家にとっては、資産を失うリスクがある一方で、間違いなく大きなチャンスがあるとロジャーズ氏は信じている。
日経BPではロジャーズ氏の新刊『危機の時代』の発売に合わせて、同書を購入された読者の皆様を対象に6月11日(木)18時からロジャーズ本人が登場する緊急ウェブセミナーを開催する。お申し込みについては、下記の開催概要をご覧いただきたい。
【ウェビナー開催概要】
『危機の時代 伝説の投資家が語る経済とマネーの未来』発売記念
ジム・ロジャーズ氏によるオンラインセミナー
テーマ:「危機の時代をどう生きるべきか」(書籍読者500人限定)
参加費:無料(事前登録制)
開催日時:6月11日(木)18時~18時40分(予定)
主催:株式会社日経BP、La Ditta Singapore Pte Ltd
運営協力:シマムラジュク/株式会社Kanatta
言語:英語、日本語(英語は一部日本語通訳あり)
ゲスト:ジム・ロジャーズ氏
司会:広野彩子 日経ビジネス副編集長、山崎良兵 日経BPクロスメディア編集部長
モデレーター:小里博栄氏 (本書取材協力・翻訳監修)
定員:500名(『危機の時代』購入者が対象です。応募者多数の場合は抽選となります)
参加方法:6月8日(月)AM10時までに下記申込フォームからお申し込みください。
(お申し込みには日経IDが必要です)
視聴方法は当選者の方のみ開催前日にメールでお知らせします。お申し込みいただいた後、登録完了メールが受信フォルダに見当たらない場合、お客様のメール受信設定によっては迷惑メールフォルダへ格納されている可能性もございますので、ご確認をお願いします。抽選の当落についてのお問い合わせにはお答えできませんので予めご了承ください。なおシステムやネットワークの不具合等により、イベントが開催できなかったり、延期となったりする可能性があることを、ご承知ください。
お申し込みはこちら
リーマン・ショックの到来を予測し、2020年にも未曾有の経済危機が起きると予言していた伝説の投資家、ジム・ロジャーズ氏が語る「危機の時代」のサバイバル術!
270ページにわたり、ロジャーズ氏本人が世界的な危機の正体と経済・マネーの行方を詳細に分析。リーマン・ショック、ブラックマンデー、世界恐慌など、過去の経済危機では何が起きたのか、今起きている危機はどうなるのか、世界はどう変わり、どのように投資すればいいのか、個人や企業はどう行動すればいいのか……。
ビジネスパーソン、経営者、金融・市場関係者、投資家が今知りたい情報が満載!歴史から学ぶ教訓と、危機の時代を生き抜くためのヒントに満ちた一冊!
【本書の主な内容】
・過去の危機では何が起きたのか
・経済危機で大儲けした人々
・危機が起きた際にまずすべきこと
・逆境で生まれる投資チャンス
・お金に困らない子供の育て方
・長期的な成功のために重要なこと
・歴史から得られる教訓
・戦争が起きる可能性
・中国、米国、欧州、新興国の行方
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