(第1回から読む)
ゴールは「抽象的なことを、解像度高く書く」
梅田悟司氏(以下、梅田):実は僕、最近「文章を書く」ことのゴールが分かった気がしているんです。

コピーライター、ベンチャーキャピタルであるインクルージョン・ジャパン取締役。1979年生まれ。上智大学大学院理工学研究科修了。レコード会社を立ち上げた後、電通入社。国内外の広告賞・マーケティング賞をはじめ、3度のグッドデザイン賞や観光庁長官表彰などを受ける。CM総合研究所が選出するコピーライタートップ10に2014~18年と5年連続で選出。主な仕事に、ジョージア「世界は誰かの仕事でできている。」、タウンワーク「バイトするならタウンワーク。」がある。その他、テレビドラマのコミュニケーション・ディレクターや、ベンチャー企業のコミュニケーション戦略立案などを行う。著書に『「言葉にできる」は武器になる。』『捨て猫に拾われた男』『やってもやっても終わらない名もなき家事に名前をつけたらその多さに驚いた。』ほか
藤吉豊氏(以下、藤吉):お、それは何ですか?
梅田:「抽象的なことを、解像度高く書く」、これです。抽象と具体は反対の性質を持っているため、1つの文章中に共存し得ないと思われています。でも、抽象だけだと言おうとしていることは分かるけれど、深い理解は得られない。一方、具体だけでは言っていることは分かるけれど、真意までは伝わらない。この抽象と具体が持っているトレードオフの構造を根本から見直さなければ、本当に言いたいことを伝えることはできないという結論に達しました。そこで僕が実践しているのが「抽象的なことを、解像度高く書く」なんです。
藤吉:「抽象的なことを、解像度高く書く」……。どういうことでしょうか?
梅田:例えば、大手メーカーの企業理念を見てみると、驚くほどみんな同じです。「社会の公器として、人々が暮らすインフラの整備を行う」といった言葉が並んでいるわけです。そこに食品メーカーであれば「食」や「食べる」、消費財メーカーであれば「生活」や「人」という言葉が添えられている程度なのが現実で、毒にも薬にもならないものばかりです。これは抽象度が高くて、解像度が低い状態と言えるでしょう。
藤吉:なるほど。
梅田:抽象的で解像度が低い言葉は、スローガンになりがちです。単なる掛け声です。言っていることはまっとうなのですが、働いている社員は「そうそう、私はこのために働いているんだ! もっと頑張ろう!」という気持ちにはなりませんよね。最近素晴らしいメッセージだと思ったのは、ユニクロです。「Life Wear」というタグラインから、「ふだん着の日が、人生になる。」というメッセージへの落とし込みは、抽象的なことを解像度高く書くお手本のようだと感じています。働いている社員の方も「なぜ自分たちが普段着を売るのか」を明確に理解できるし、力を出そうと思えますよね。
藤吉:確かに、スローガン的な企業理念だと、どんなことをしようとしているのかがよく分かりませんね。ユニクロのほかにも、「抽象的なことを解像度高く書く」ができている会社はありますか?
梅田:個人的な感触としては、ベンチャー企業の経営者のほうができていると感じます。企業理念では目指すべき世界観といった大きいことを言っているけれど、その理念が具体的なサービスや製品に明確に落とし込まれているので、地に足が着いている。僕が行っているベンチャー支援も、このあたりのことが中心になります。
藤吉:うーん、解像度が高いことと具体的であることは、どのように違うんでしょうか。もう少し伺えますか?
Powered by リゾーム?