「ものが言える環境」を担保する

仲野:もう一つ、大学で意見を言いにくい理由は、「こんなん言うてええんやろか」という不安があるせいだと思うんです。こんなことを言ったら怒られそうだ、祟(たた)りがあるんじゃないかと恐れるメンタリティがある(笑)。

 私はよく言いたいことを言うと言われますけど、2割くらいしか言っていません。大学はオープンな場だと言いつつ、実は忖度(そんたく)や噂話や陰口が多い。難しいのは、日本人は異なる意見を言われると、人格を否定されたと思うところが。

サコ:それは皆さん、よく言いますね。

<span class="fontBold">仲野 徹<br>大阪大学大学院生命機能研究科/医学系研究科・教授</span><br>1957年、「主婦の店・ダイエー薬局」が開店した年、同じ街(大阪市旭区千林)に生まれる。大阪大学医学部医学科卒業後、内科医から研究の道へ。ドイツへ留学し、ヨーロッパ分子生物学研究所(EMBL)研究員、京都大学医学部講師、大阪大学微生物病研究所教授を経て、2004年から大阪大学大学院医学系研究科教授。専門は病理学、「いろんな細胞はどうやってできてくるのだろうか」学。2012年には日本医師会医学賞を受賞。著書に、『エピジェネティクス』(岩波新書)、『こわいもの知らずの病理学講義』(晶文社)、『<a href="https://www.amazon.co.jp/dp/4065231191/ref" target="_blank">考える、書く、伝える 生きぬくための科学的思考法</a>』(講談社)など。趣味は、ノンフィクション読書、僻(へき)地旅行、義太夫語り。</a>
仲野 徹
大阪大学大学院生命機能研究科/医学系研究科・教授

1957年、「主婦の店・ダイエー薬局」が開店した年、同じ街(大阪市旭区千林)に生まれる。大阪大学医学部医学科卒業後、内科医から研究の道へ。ドイツへ留学し、ヨーロッパ分子生物学研究所(EMBL)研究員、京都大学医学部講師、大阪大学微生物病研究所教授を経て、2004年から大阪大学大学院医学系研究科教授。専門は病理学、「いろんな細胞はどうやってできてくるのだろうか」学。2012年には日本医師会医学賞を受賞。著書に、『エピジェネティクス』(岩波新書)、『こわいもの知らずの病理学講義』(晶文社)、『考える、書く、伝える 生きぬくための科学的思考法』(講談社)など。趣味は、ノンフィクション読書、僻(へき)地旅行、義太夫語り。

仲野:でも、成長するには、お互い正直にものを言い合って、たとえ意見が違っても、受け入れるところは受け入れていく姿勢が大事ですよね。

サコ:そこで重要なのは、信頼関係をつくることですね。こんなん言うてええんやろかという危惧も、普段から「言っても許してもらえる関係」があれば避けられる。私が学長になったときも、何でも知ってるサコじゃなく、成長中のサコ、学びたがるサコであることが大事でした。

 「あのサコやから仕方ない」と思ってもらえたことで、たくさんの人が協力してくれた。それには、やはりインフォーマルなコミュニケーションが必要です。

仲野:日本の場合、フォーマルな場では、どうしてもヒエラルキー的な発想が強くなりますからね。今のお話がよく分かるのは、私、教授になって3、4年ごろが一番しんどかったんです。そのころよく弱音を吐いたんですよ。

 そうしたら、似たようなシチュエーションの人は皆、同じ悩みを抱えていることが分かった。言わないだけなんです。だから、もし私が総長になることがあったら、「積極的に弱音を吐く運動」をしたいと思っています。

サコ:いいですね。私は、このコロナ禍でそこが変わると思っているんです。以前はええかっこの強い自分しか見せなかった。でも、コロナの前では全員平等ですから、他人の弱さも見えてくるし、自分の弱さも見せられるようになる。在宅ワークで叱られている姿を、子どもが見ていたりするわけですし。

仲野:なるほど、それはありますね。

サコ:弱さを見せることは、自分を解放する一つの手段でもあります。それによって自分がより前向きになれる。それも含めて、周囲から受け入れられることが前提です。

仲野:率直に意見を言っても、弱い自分をさらけ出しても、否定されず受け入れてもらえる。そういう環境をどう担保するかが大事でしょうね。

次ページ ざっくばらんに話そう