国立大学は、変わらなければならないといわれて数十年、独立法人化されてからも10年以上たちますが、なかなか大きな変化はありません。大学改革の必要性を訴えて学長選にも立候補した大阪大学大学院医学系研究科の仲野徹教授は、「お金がない、教員が疲れ果てている」という悪循環が原因だと言います。大学の役割とは何なのか、創造的な教育を大学で行うためには何をすればいいのか。仲野教授と、日本初のアフリカ出身の大学学長として活躍する京都精華大学のウスビ・サコ学長が考えます。対談後編です。

対談前編から読む

日本の大学が「リベラルアーツ」を軽視するのはなぜか

仲野徹氏(以下、仲野):こんなに現代社会は速く変化しているのに、大学のシステムはほとんど変わっていませんね。全然先進的じゃなくなっている。

ウスビ・サコ(以下、サコ):大学に限らず、日本のマネジメントはかなり閉鎖的で古臭いと思います。このコロナ禍でも、チャレンジングで変化に前向きな社会は対応が早い。日本は慎重なのかもしれないけど、そのせいでコロナの対応も後手後手になってしまっています。

 日本でエリートといわれる東大や阪大の医学生たちと話をしても、未来の世界が想像できていないのが残念です。皆さん、「日本と世界は」「日本は世界に対して」などと、なぜか日本と世界を切り離して話すんですけど。

仲野:アンチグローバリズムみたいですね。

<span class="fontBold">ウスビ・サコ氏<br>京都精華大学学長</span><br>1966年5月26日マリ共和国・首都バマコ生まれ。81年、マリ高等技術学校(リセ・テクニック)入学。85年、中国に留学し北京語言大学、東南大学で学ぶ。91年4月、大阪の日本語学校に入学。同年9月京都大学研究室に所属。92年、京都大学大学院工学研究科建築学専攻修士課程入学。99年、同博士課程修了。2000年、京都大学より博士号(工学)取得。01年、京都精華大学人文学部専任講師に就任。02年、日本国籍取得。13年、人文学部教授、学部長に就任。18年4月、学長に就任。研究テーマは「居住空間」「京都の町家再生」「コミュニティー再生」「西アフリカの世界文化遺産(都市と建築)の保存・改修」など。社会と建築空間の関係性をさまざまな角度から調査研究を進めている。</a>
ウスビ・サコ氏
京都精華大学学長

1966年5月26日マリ共和国・首都バマコ生まれ。81年、マリ高等技術学校(リセ・テクニック)入学。85年、中国に留学し北京語言大学、東南大学で学ぶ。91年4月、大阪の日本語学校に入学。同年9月京都大学研究室に所属。92年、京都大学大学院工学研究科建築学専攻修士課程入学。99年、同博士課程修了。2000年、京都大学より博士号(工学)取得。01年、京都精華大学人文学部専任講師に就任。02年、日本国籍取得。13年、人文学部教授、学部長に就任。18年4月、学長に就任。研究テーマは「居住空間」「京都の町家再生」「コミュニティー再生」「西アフリカの世界文化遺産(都市と建築)の保存・改修」など。社会と建築空間の関係性をさまざまな角度から調査研究を進めている。

サコ:10年、20年後に、日本が世界から求められている保証はない。それより、例えばケニアの人々と一緒にどうやって新しい病気の治療法を見つけていくか。日本の先進医療は質が高いといっても、世界の大多数は初歩的で人間的な医療を必要としているわけで、その人たちときちんと会話できるのかといったことを考えないといけないと思います。

仲野:学生たちと話していると、少しイマジネーションが乏しい感じがするんです。入学試験の影響もあるかもしれませんけど、答えのある問題を解こうとし過ぎるというか。

サコ:むしろ今は、問いを立てる力が大事なんですよね。米国の医学生は、リベラルアーツのカレッジを出てからメディカルスクールに行ったりする。それは、そこに医学の知識だけでは得られないもの、しかも医療をやっていくのに必要なものがあるからです。

仲野:近年、日本の大学はリベラルアーツを軽視する傾向がありますが、私も「これからの人生100年時代には、ダブルメジャー(二重専攻)くらい持っておかないと仕事を失うかもしれない」と学生に強く言っています。

サコ:すでにお隣の中国では、それをバンバンやっています。日本の大学は30年前には優れていたかもしれないけど、成長できずにいる間に周りに追い越されてしまった。あまりにシンプルにしようとして、味のある部分を切り落として。しかもその自覚がない。

仲野いや、ほんと耳が痛いです。大学が面白くなくなったのは、われわれが悪かったという気がします。

サコ:まあ、それは大人が悪かったのかもしれない。皆さん、ちょっと心配し過ぎたんだと思うんです。将来を予測する中で、突然変異もたくさんあった。そういう変化に対する柔軟な対応は、大学のカリキュラムに組み込まれていない可能性があります。

仲野:カリキュラムを作る人たちが右肩上がりの時代を生きてきたために、過去の発想から抜け出せなくなっているのも問題ですね。今またコロナでそれが大きく揺さぶられているのに、まだそこにしがみついている。

サコ:例えば新しいカリキュラムを構想するとき、そこに若い人を入れようとすると、「この人は若過ぎる」という意見が出るんです。でも、若過ぎない人たちだけで考えると、チャレンジングで尖(とが)った提案は出てこない。どんどん若い人を入れてブレーンストーミングのグループを若くして、アイデアを出してもらえばいいんです。

仲野:大学で皆が新しい提案をしたがらない一つの理由は、提案した人がその仕事を最後までやらされるシステムになっているからですよね。ならば、確かにアイデアを出す人と、それを検討、実行する人を分けたらいいかもしれない。

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