怒りをコントロールする2つの方法
感情面と自律神経との関係を伺います。「喜怒哀楽」とある感情のうち、怒りの感情は自律神経をとりわけ乱すのですね。
小林:怒りというのは自己満足の世界で、感情をコントロールできなくなっているということです。怒っていいことはまったくありません。
頭では理解できていても、感情が爆発してしまうことはありますよね。
小林:仕事にしろプライベートにしろ、腹の立つ出来事が起こるのはよく分かります。ただ、覚えておいてほしいのは、「怒る」という行為によって自律神経は乱れ、コンディションを大きく崩すという事実です。
自律神経が乱れると、脳に十分な酸素と栄養素が行き渡らなくなり、冷静な判断力を失い、さらに感情の制御が利かなくなります。また、乱れた自律神経は3~4時間は回復しません。一度、怒るとその後しばらく悪いコンディションのまま仕事をしなければならなくなります。
怒らないようにするコツはありますか。
小林:とっておきの対処法が2つあります。1つ目は、怒りそうだなと感じたら、とりあえず黙り、深呼吸すること。不思議なもので、「今、自分は怒りそうだ」と認識できた瞬間に怒りは50%収まっています。自律神経が乱れ始める瞬間をキャッチして、それ以上に乱れないように先手を打つ作戦です。
2つ目は、シンプルですが、怒らないと決めておくことです。怒りそうな瞬間が訪れたら、「怒りの波がやってきたな。でも、怒らないと決めたんだ」と思い出してください。これを繰り返していくうちに、怒りのマネジメントができるようになっていきます。

怒りにもいろいろな表現があると思います。感情を爆発させるのではなく、理不尽なことがあったときに訴えたり、それはちょっと違うんじゃないですかと、上司に反論するとか。
小林:それも結局、自分中心に考えている反応ですから、やはりいいとは思えません。本人は正しいと思っていても、第三者から見れば愚かなことかもしれません。
どうしても相手に何かを伝えたいと感じるときには、「感情に任せてその場で言う」のではなく、先に挙げた2つの方法で感情をコントロールし、コンディションを整えてから、後で「もっと効果的な方法で伝える」ことをお勧めします。
先生は日常で怒ったりすることはないですか?
小林:昔はすごかったですよ。20代、30代は怒鳴り散らしていました。でも自律神経の研究を進めるうちに、怒るのはまったく無駄ということが分かってきて、やめたんです。
性格的に穏やかな人っていますね。何が起きてもニコニコしている人と、すごくアグレッシブで波のある人。それはやはり明らかに自律神経のコントロールの違いということですか。
小林:はい。違いますね。穏やかな人は常に穏やかですからね。
目指すべきは「穏やか」なほうということですね。
小林:そうです。怒った結果、何か変わればいいのでしょうが、たいていは負のほうにいってしまう。さらに自分にダメージが返ってきて、言わなきゃよかったと後悔する。自律神経をこれほど乱す行為はありません。
親しい人が亡くなったとか、あるいはペットロスなんていうのも、心身のダメージがあると思うのですが?
小林:ダメージはありますが、戻りは早いと思います。本当に悲しむときは悲しむ、喜ぶときは喜ぶこと。逆に、感情を無理に抑制し、悲しいのに悲しまないと、かえってストレスがたまります。死や悲しみは必ず訪れることですから、受け入れるかどうかの問題であって、負の感情ではありません。しかし、怒るというのは自分の感情をコントロールできていない状態ですから、自律神経を大きく乱してしまいます。
(後編に続く)
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