2020年、香川県の父母ヶ浜芸術祭に展示された脇田玲氏の作品「Triplet」。映像を脇田氏、音楽を小室哲哉氏が担当した。(記事後半に、作品の詳しい説明を載せています)
2020年、香川県の父母ヶ浜芸術祭に展示された脇田玲氏の作品「Triplet」。映像を脇田氏、音楽を小室哲哉氏が担当した。(記事後半に、作品の詳しい説明を載せています)

 国際情報分析を専門とするコンサルタントと現代芸術家でもある大学教授による異色の対談、そこから浮かび上がる、新しい世界や文化の秩序とは?

 コロナ禍が続く今、各国の間で人的交流が減り、世界は分断された状態にある。そんな中、デロイト トーマツ コンサルティングの邉見伸弘氏は著書『チャイナ・アセアンの衝撃』の中で、2020年のコロナ禍で主要国として唯一経済成長を遂げた中国と、ASEAN各国が連携しながら巨大経済圏を築きつつあると指摘した。経済の低迷、人口減少に直面する日本は、この経済圏が生まれる状況の中、どのような力を発揮できるのか。

 一方、アーティストであり慶応義塾大学環境情報学部学部長の脇田玲教授は、世界が変化する時代において、アートが新しい局面を開きつつあり、テクノロジーの進歩がそれを後押しするという。

 邉見氏と脇田氏は慶応大学が1990年に新たな人材育成のために開いた慶応大学湘南藤沢キャンパスの同窓生。これからの時代に、ビジネスで、そしてアートという文化の領域で日本が力を発揮するために必要なことは何かを語り合った。

(聞き手は日経ビジネス編集部 山崎良兵、村上富美)

<span class="fontBold">邉見 伸弘(へんみ・のぶひろ)氏</span><br />デロイト トーマツ コンサルティング 執行役員・パートナー/チーフストラテジスト。JBIC(国際協力銀行)で、国際投融資(アジア地域及びプロジェクトファイナンス)やカントリーリスク分析、アジア債券市場育成構想(ABMI)などの政策案件に従事。米国系戦略ファームやハーバード大学国際問題研究所などを経て現職。国際マクロ経済・金融知見を軸に、メガトレンド分析、中期経営計画策定支援やM&A案件を中心に、業界横断型のプロジェクトに多数従事。(写真=鈴木愛子)
邉見 伸弘(へんみ・のぶひろ)氏
デロイト トーマツ コンサルティング 執行役員・パートナー/チーフストラテジスト。JBIC(国際協力銀行)で、国際投融資(アジア地域及びプロジェクトファイナンス)やカントリーリスク分析、アジア債券市場育成構想(ABMI)などの政策案件に従事。米国系戦略ファームやハーバード大学国際問題研究所などを経て現職。国際マクロ経済・金融知見を軸に、メガトレンド分析、中期経営計画策定支援やM&A案件を中心に、業界横断型のプロジェクトに多数従事。(写真=鈴木愛子)

第1回「日本のカッコよさを日本人は分かっていない」に続き、 前回「日本人に必要なのは自分で未来をつくるという思考」にも読者から大きな反響がありました。3回目となる今回が最終となります。

 さて、前回は現代アートについて、まだ価値が定まっていないアーティストを育てるために、その真価を見極めるギャラリスト視点、つまり目利きの力が必要であり、その視点は、ベンチャーキャピタリストが新たなスタートアップの価値を見極める構図に通じる、という指摘がありました。それに加え、新たな価値を育てていくために、日本は社会として新たなイノベーションや異才の芽を摘むことなく、育てる必要があるとの話も出ました。

 邉見さんの著書『チャイナ・アセアンの衝撃』では、現地発のイノベーションが数多く紹介されています。経済成長著しいチャイナ・アセアン発の新しいサービスが次々と生まれている印象です。

邉見伸弘氏(以下、邉見氏):東南アジアでは、完全でなくてもアイデアを駆使して、何とか切り抜けるビジネスが見られます。いわば、「ハック」が起きやすい地域です。ハックというのは、デジタル用語だけでなく、あり物で取りあえず何とかする、ということで使われます。最新テクノロジーがなくても、今ある技術で、キャッシュレス決済ができるようにするとか、ハックで事業を生み出すこともあります。

<span class="fontBold">脇田 玲(わきた・あきら)氏</span><br />慶応義塾大学環境情報学部学部長。計算機科学者、現代芸術家。ヴィジュアライゼーションとシミュレーションを用いてこの世界を再解釈するための作品を制作している。特に近年は、流体力学や熱力学のモデルに基づく独自ソフトウェアを開発し、科学と美術を横断する映像表現に注力している。並行して、慶応義塾大学SFCやSCI-Arc Tokyo Programにて、国内外の若手のアーティスト、デザイナー、建築家の育成にも従事している。(写真=鈴木愛子)
脇田 玲(わきた・あきら)氏
慶応義塾大学環境情報学部学部長。計算機科学者、現代芸術家。ヴィジュアライゼーションとシミュレーションを用いてこの世界を再解釈するための作品を制作している。特に近年は、流体力学や熱力学のモデルに基づく独自ソフトウェアを開発し、科学と美術を横断する映像表現に注力している。並行して、慶応義塾大学SFCやSCI-Arc Tokyo Programにて、国内外の若手のアーティスト、デザイナー、建築家の育成にも従事している。(写真=鈴木愛子)

脇田玲氏(以下、脇田氏):東南アジア、中国はサプライチェーンがすごいから、必要な部品を集めてすぐにプロトタイピングができます。少し違う視点で言えば、中国の街で巨大な竿(さお)をバイクに付けてたくさんの物を運んでいる動画がありますが、あれってまさにハッカーマインドですよね。

邉見氏:そこは、日本とチャイナ・アセアンの大きな違いかもしれません。中国は一見、自由度は低そうです。しかし、書籍でも触れましたが、大都市や省都を中心とする都市群ごとの競争が起き、経済成長を後押ししています。あれだけ人口の規模が大きければ、異才も出てくるのでしょう。

 一方、東南アジアに、ハックのポテンシャルがあるのは理解できます。最近の事例を見ても、配車などモビリティーサービスのグラブ(シンガポール)もフードデリバリー、金融サービスに領域を拡大し、スタートアップ企業としては域内最大級の企業に成長している。ゴジェック(インドネシア)に至ってはライドシェアから始まって、フードデリバリー、ペット輸送、掃除、美容院サービス、送金等まで備えるスーパーアプリに成長しました。なお、この両社は米国上場(グラブ)や、統合(ゴジェックとネット通販大手のトコペディア)の動きで今年に入って、改めて注目が集まっています。

 携帯電話でも世界ではiPhone、ギャラクシー、中国勢(シャオミ、ファーウェイ等)が競争しているように思いますが、東南アジアでは、中国製のオッポがトップシェアですよね。価格が手ごろなのもありますが、ビューティーモードなど性能の良いカメラが何個もついていたりします。

 それこそバイクや自転車に竿を渡していろいろなものをぶら下げる、バイクをタクシーにするような発想と似ていますね。そういう生活の知恵に対応した製品やサービスというのはハックっぽいですよね。

脇田氏:そういう野性感というんですかね。ちょっと言語化しにくいですけど、チャイナ・アセアンはたくましい野性が残っている地域という印象はありますね。

続きを読む 2/3 経済を見るにもアートを見るにも「鳥の眼、魚の眼、虫の眼」が大事

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