ドイツ・ベルリンでの草間彌生氏の回顧展(2021年4月~8月にかけて開催予定だったが中断されている)のプレス内覧の日に'A Bouquet of Love I Saw in the Universe'という名の作品を人が歩きながら見学する様子(写真:AP/アフロ)
ドイツ・ベルリンでの草間彌生氏の回顧展(2021年4月~8月にかけて開催予定だったが中断されている)のプレス内覧の日に'A Bouquet of Love I Saw in the Universe'という名の作品を人が歩きながら見学する様子(写真:AP/アフロ)

 国際情報分析を専門とするコンサルタントと現代芸術家でもある大学教授による異色の対談、そこから浮かび上がる、新しい世界や文化の秩序とは?

 コロナ禍が続く今、各国の間で人的交流が減り、世界は分断された状態にある。そんな中、デロイト トーマツ コンサルティングの邉見伸弘氏は著書『チャイナ・アセアンの衝撃』の中で、2020年のコロナ禍で主要国として唯一経済成長を遂げた中国と、ASEAN各国が連携しながら巨大経済圏を築きつつあると指摘した。経済の低迷、人口減少に直面する日本は、この経済圏が生まれる状況の中、どのような力を発揮できるのか。

 一方、アーティストであり慶応義塾大学環境情報学部学部長の脇田玲教授は、世界が変化する時代において、アートが新しい局面を開きつつあり、テクノロジーの進歩がそれを後押しするという。

 邉見氏と脇田氏は慶応大学が1990年に新たな人材育成のために開いた慶応大学湘南藤沢キャンパスの同窓生。これからの時代に、ビジネスで、そしてアートという文化の領域で日本が力を発揮するために必要なことは何かを語り合った。

(聞き手は日経ビジネス編集部 山崎良兵、村上富美)

前回「日本のカッコよさを日本人は分かっていない」の対談では、アートの評価基準なども欧米が中心になってつくり上げており、日本はそのルールの中で勝負してきたというお話がありました。アジアの国々が経済的な発展を遂げる中で、その勢力図は変わってきているとお考えですか?

邉見伸弘氏(以下、邉見氏):中国のゲーム会社ティミ・スタジオ深圳及び成都が開発し、中国のテンセントが配信する「Honor of Kings」というモバイルゲームがあります。BMWが人気キャラクターの衣装・アクセサリーを共同開発して、一定期間ゲーム上で売ったそうですが、なんと1日で1.5億元売れたそうです。日本円(1元=約16.7円)で25億円くらい。しかもデジタルだからコストはクルマを作るのとは比べものにならないほど低い。利益を考えれば、いったい何台クルマを販売すればよいのか?と驚かされます。

脇田玲氏(以下、脇田氏):前回、クルマのデザインは街並みや道路などの風景と関係が深いと言いましたが、ゲームは物理的な制約を受けにくいので、こうした形で中国発のデジタルアートが広がる可能性は十分ありますね。チャイナ・アセアンは経済だけじゃなくて文化の潮流を変えるかもしれませんね。

<span class="fontBold">邉見 伸弘(へんみ・のぶひろ)氏</span><br />デロイト トーマツ コンサルティング 執行役員・パートナー/チーフストラテジスト。JBIC(国際協力銀行)で、国際投融資(アジア地域及びプロジェクトファイナンス)やカントリーリスク分析、アジア債券市場育成構想(ABMI)などの政策案件に従事。米国系戦略ファームやハーバード大学国際問題研究所などを経て現職。国際マクロ経済・金融知見を軸に、メガトレンド分析、中期経営計画策定支援やM&A案件を中心に、業界横断型のプロジェクトに多数従事。(写真=鈴木愛子)
邉見 伸弘(へんみ・のぶひろ)氏
デロイト トーマツ コンサルティング 執行役員・パートナー/チーフストラテジスト。JBIC(国際協力銀行)で、国際投融資(アジア地域及びプロジェクトファイナンス)やカントリーリスク分析、アジア債券市場育成構想(ABMI)などの政策案件に従事。米国系戦略ファームやハーバード大学国際問題研究所などを経て現職。国際マクロ経済・金融知見を軸に、メガトレンド分析、中期経営計画策定支援やM&A案件を中心に、業界横断型のプロジェクトに多数従事。(写真=鈴木愛子)
<span class="fontBold">脇田 玲(わきた・あきら)氏</span><br />慶応義塾大学環境情報学部学部長。計算機科学者、現代芸術家。ヴィジュアライゼーションとシミュレーションを用いてこの世界を再解釈するための作品を制作している。特に近年は、流体力学や熱力学のモデルに基づく独自ソフトウェアを開発し、科学と美術を横断する映像表現に注力している。並行して、慶応義塾大学SFCやSCI-Arc Tokyo Programにて、国内外の若手のアーティスト、デザイナー、建築家の育成にも従事している。(写真=鈴木愛子)
脇田 玲(わきた・あきら)氏
慶応義塾大学環境情報学部学部長。計算機科学者、現代芸術家。ヴィジュアライゼーションとシミュレーションを用いてこの世界を再解釈するための作品を制作している。特に近年は、流体力学や熱力学のモデルに基づく独自ソフトウェアを開発し、科学と美術を横断する映像表現に注力している。並行して、慶応義塾大学SFCやSCI-Arc Tokyo Programにて、国内外の若手のアーティスト、デザイナー、建築家の育成にも従事している。(写真=鈴木愛子)

デジタル文化の覇権はより早く広がる可能性も

邉見氏:歴史を振り返ると、文化も経済も、大国が『覇権』を握ってきました。デジタルの世界でも、大国の覇権が広がっていくということですかね。

脇田氏:ビジネスがグローバル化する前は、戦争の勝敗が文化の覇権を決めてきました。例えばスーツやジャケットはヨーロッパの軍服の名残ですよね。戦争と同時に文化的な侵略がなされてきたわけです。今は経済がそれに置き換わったと考えれば、経済的な覇権によって文化も大きく影響を受けると言えます。

邉見氏:アートのマーケットでもアジアマネーは力を持っていますか?

脇田氏:中国は最も活況を呈しているマーケットの一つです。シンガポールのアートシーンも加速しています。

今の日本のパワーを示す現代アート。なのに発表の場がない

アートやデザインの世界においてもチャイナ・アセアンが存在感を増す状況の中、日本がアートの力を発揮するためには何が必要でしょうか。

脇田氏:これは著名なコレクターの高橋龍太郎先生がおっしゃったことですが、日本が文化的に尊敬される国になるには、やっぱり今のアート、今のデザインを、みんなが全力で支援し、その価値を共有していくことが大事です。茶の湯や花道などの伝統文化ももちろんパワーを持っていますが、それ以上に「今の日本」が表れるのが現代のアートだからです。さらに言えば、今の技術、今のツール、今の思想に基づいて作られた作品は、今を生きる国民へのリスペクトなのです。そこがあるかないかで、単なる経済大国か尊敬される大国か、見方が変わってくる。外交にも影響する部分が少なからずあります。

 日本は科学技術戦略や科学技術外交はかなり頑張っています。お台場にある日本科学未来館は非常に素晴らしいですよね。Geo-Cosmos(ジオ・コスモス)という全天球型ディスプレーをはじめ、文科省の助成を受けた研究成果が企画展示されていて、常に誰もがアクセスできるようになっています。未来館を訪れた外国のVIPはみんなびっくりするわけです、日本の科学技術はすごいと。

 じゃあ、文化はどうかと言うと、未来館のようなセンターが日本にないわけです。近・現代の美術館は多くありますが、ひと昔前のコレクションばかりで、デジタルやバイオなどと接続する今のアートのコレクションが少ない。企画も古いものばかりやっているから、今の時代のアーティストはヨーロッパやアジアに展示場所を求めて出ていっています。

邉見氏:かつてフランスに留学していた際、オルセー美術館の近くに住んでいたのですが、文化力への執念を感じました。どの美術館も昔からあるものを陳列するだけでなく、頻繁に並べ方を変えたりして新たな解釈を試みている。所蔵している作品は、世界的に有名なものも多いですが、並べ直すことで、視点が変わってくる。これも、伝統だけではなく、現代で価値を問い直す、といってもよいかもしれません。あのルーヴル美術館も、中東(ドバイ)に別館を作りましたね。パリ中心の7区でも、アジア・アフリカ・オセアニア等の原始美術を展示するケ・ブランリー美術館(2006年設立)を作っています。さらに5区にある自然史博物館の進化大陳列館も強烈な印象を受けました。

脇田氏:ビュフォン通りにある自然史博物館は日本のものとは全然違いますね。生き物の歴史と讃歌というか、進化の流れを構造化した空間というか。

続きを読む 2/3 ベンチャーキャピタリストとギャラリストの共通点

この記事はシリーズ「Books」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。