史上初の女性天皇・推古天皇の御代を描いた歴史小説が相次いで刊行された。幅広い時代を網羅する伊東潤氏の『覇王の神殿 日本を造った男・蘇我馬子』(潮出版社)と新人・天津佳之氏の『和らぎの国 小説・推古天皇』(日本経済新聞出版)。歴史教科書的には、日本の国家体制は豪族・蘇我氏が滅ぼされた大化の改新から始まったとされるが、二人の作家は女帝の甥(おい)の摂政・聖徳太子(厩戸皇子)と外戚でもあった大臣・蘇我馬子が政治を主導した推古朝こそ、日本の国の成り立ちの時期と口をそろえる。なぜ今、1400年前の推古朝なのか。現代の映し鏡として中国、朝鮮半島との向き合い方で学ぶところは大きいという二人に、焦点となっている女性天皇という存在も含めて語り合ってもらった。
伊東潤氏(以下、伊東氏):日経小説大賞受賞おめでとうございます。デビューは昨年でしたね。
天津佳之氏(以下、天津氏):ありがとうございます。受賞作の『利生の人』でデビューしました。
伊東氏:まだ作家専業ではないとお聞きしましたが、お歳は。
天津氏:今年で43歳になります。


日本文化の根源を小説にしたかった
伊東氏:デビューするには、ちょうどよい年の頃ですね。好きな作家は誰だったんですか。
天津氏:僕は隆慶一郎先生が好きでした。もともとはマンガなんです。「少年ジャンプ」連載の『花の慶次』の原作が隆先生の『一夢庵風流記』で、歴史に興味を持った最初です。あとは夢枕貘先生の『陰陽師』とか。
伊東氏:お二人とも、天津さんの作風には、さほど影響を与えていないかな(笑)。
天津氏:何と言えばいいのか、好きな作家の作風をリスペクトしても猿まねになってしまう気がするんです。似てはならないと意識しました。
伊東氏:それは大切なことです。デビュー作で南北朝時代を書かれて、次はなぜ古代を。
天津氏:日本の文化性の根源と言いますか、そもそも抽象的なことを小説にしたいのです。『利生の人』は、禅が全国に広まっていったきっかけにフォーカスしました。『和らぎの国』はタイトルそのままの「和」です。日本は「和」を重んじる国といわれますが、その「和」がどのように現れたのかを物語で描きたかった。
伊東氏:テーマの選び方がいいですね。そうしたテーマから題材を探していくと、作品に一本の筋が通ってきます。
天津氏:伊東先生は、戦国から安土桃山の作家というイメージが強いので、昨年『覇王の神殿』を書店で見た時は驚きました。なぜ古代に遡ったのでしょう。
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