実は、このマスクを紹介した理由はもうひとつある。バイオフェイスの商品化に際して、島精機は編成データを提供しただけではないのだ。バイオワークス、およびTBMと連携し、商品の開発や製造にも関与。また、2020年11月、TBMに対して出資を行ったことも発表されている。

 ちなみにTBMは、石灰石などを原料に、従来のプラスチックや紙に替わる新素材「LIMEX」を開発・製造する新鋭企業。島精機の狙いは、TBMやバイオワークスと組むことで、サーキュラー・エコノミーの実現やSDGs(持続可能な開発目標)の取り組みを加速させることにあるようだ。

不織布マスクがプラごみに。深刻化する環境汚染

 島精機や島正博会長は、TBMやバイオワークスの事業のどこに魅力を感じて出資を決めたのか。それを知るために、今、バイオプラスチックに熱い視線が注がれている理由に目を向けてみよう。

 花粉症やコロナ対策としておなじみの不織布マスク。このマスクが、石油由来のプラスチックでできていることをご存じだろうか。「知らなかった」という方は、お手持ちのマスクの素材表示を確かめてほしい。ポリエステル、ポリオレフィン、ポリプロピレン、ポリウレタンなどの原料名が並んでいるはずだ。

プラスチックを原料とするマスクや手袋など、膨大なコロナごみは世界的な問題になっている(写真:アフロ)
プラスチックを原料とするマスクや手袋など、膨大なコロナごみは世界的な問題になっている(写真:アフロ)

 新型コロナのパンデミックによって、使い捨ての不織布マスクの消費量は大幅に増加している。それに伴って世界中で問題になっているのが、廃棄されたマスクによる海洋汚染。使用済みマスクが海洋に流出し、野生生物の命や生態系を脅かしているのだ。

 足にマスクの耳ひもが絡まったカモメが英国で救助された、ブラジルの浜に打ち上げられたペンギンの胃からマスクが見つかった、フィリピンのサンゴ礁にマスクが何枚も引っかかっていた……。痛ましいニュースが後を絶たない。

昨年だけで推計15億6000万枚のマスクが海に流出

 プラスチック製品である不織布マスクは、分解されるまでに途方もない時間がかかる。450年という説もあるほどで、そのあいだマイクロプラスチックに変化しながら海を漂い、生態系に悪影響を及ぼし続けるのだ。

 海洋保護団体「オーシャンズアジア」の推計によれば、昨年1年間で海に流出したマスクは15億6000万枚にのぼるという。既に深刻となっている海洋プラスチック汚染が、コロナ禍の長期化によってますます悪化することは必至。そこで、ポリ乳酸のように生分解性を持つ素材のマスクに注目が集まっている。

 「ごみの埋め立て処理が一般的な東南アジアでは、マスクのごみが山のように積み上がっているそうです。海洋プラスチックごみを削減するため、『途上国向けに、なんとか安価なバイオフェイスをつくってもらえないか』とのご要望もいただいています」(前出の笹木氏)

 化石資源の使用削減、カーボンニュートラルなど、さまざまな社会課題の解決法としても導入が急がれるバイオプラスチック。だが、一口にバイオプラスチックといっても多様な種類があり、おのおのの違いをきちんと把握することは思いのほか厄介だ。

 バイオプラスチックとは、植物などの有機資源を原料に用いた「バイオマスプラスチック」と、微生物などの働きで最終的に水と二酸化炭素に分解される性質を持つ「生分解性プラスチック」(土の中で分解する、海洋で分解するなどの種類がある)の総称である。注意したいのは、バイオマスプラスチックのすべてが生分解性を持つわけではないこと(むしろ生分解性のないものが多い)。非生分解性であれば、当然、海洋プラスチック汚染を減らすことはできない。

 また、バイオマスプラスチックのなかには、石油由来の原料を部分的に使っているものもある。日本バイオプラスチック協会が「バイオマスプラ」として認証し、シンボルマークの使用を許可しているのは、バイオマス由来成分が25%以上の製品なのだ。

 つまり、トウモロコシなどを原料とする100%植物由来のバイオマスプラスチックで、(堆肥をつくるコンポスト施設など)一定の環境下で完全に生分解するポリ乳酸は、バイオプラスチックのなかでも特にサステナブルな素材だということ。燃えるごみとして焼却しても、他のプラスチックに比べて二酸化炭素の排出量が大幅に少なく、ダイオキシンなどの有害物質も発生させない。

 まさに“夢のプラスチック”だが、耐熱性や成形性に問題があり、以前は実用化が難しかったとか。その弱点を克服するため、バイオワークスでは独自の添加剤(植物由来の改質剤)を開発。これを加えることで、耐熱性や耐久性などを大幅にアップさせ、石油由来のプラスチックと同等の性能を持たせることに成功したのだ。 

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