果たしてあなたは、組織の中で自信を持って、前向きに仕事に取り組めているだろうか。

 新年度を迎え昇進を果たしたが、売り上げ達成の責任に加え、部下の働きぶりを見る「管理職」の仕事は気が重い、という人もいるだろう。新しい上司と早くも反りが合わない、異動した部署の仕事が合っているのか不安だという人もいるかもしれない。

 では、どうすれば自信を持ち、前向きに日々の仕事にチャレンジしていくことができるのか。

新版 ドラッカー・スクールで学んだ本当のマネジメント』の著者、藤田勝利氏は、企業など組織のマネジメントで大切なことは「まず人材を生かすことだ」と語る。
 藤田氏は「経営の神様」と称されたピーター・ドラッカー氏を迎えて1971年に設立されたドラッカー・スクールに留学。ドラッカー氏からも直接指導を受け「マネジメントとは人との関係を生産的なものにして、組織がその目標を達成するために誰もが知っておくべき教養だと学んだ」と言う。

 新入社員にも経営者にも、もちろんマネジャーにも重要な「人材を生かす、本当のマネジメント」について、藤田氏に聞いた。(第1回)

<span class="fontBold">藤田 勝利(ふじた・かつとし)氏</span><br>住友商事、アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)を経て、2004年米クレアモント大学院大学ピーター.F.ドラッカー伊藤雅俊経営大学院(通称ドラッカー・スクール)で経営学修士号取得(MBA、成績優秀者表彰)。生前のピーター・ドラッカー教授およびその思想を引き継ぐ教授陣よりマネジメント理論全般を学ぶ。専攻は経営戦略論とリーダーシップ論。<br>帰国後はIT系企業の執行役員としてマーケティングおよび事業開発責任者を歴任。現在は次世代経営リーダー育成、イノベーション・新事業創造に関する分野を中心に事業活動を展開。桃山学院大学ビジネスデザイン学部特任教授。米ボストン発祥のVenture Café Tokyo 戦略ディレクター。
藤田 勝利(ふじた・かつとし)氏
住友商事、アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)を経て、2004年米クレアモント大学院大学ピーター.F.ドラッカー伊藤雅俊経営大学院(通称ドラッカー・スクール)で経営学修士号取得(MBA、成績優秀者表彰)。生前のピーター・ドラッカー教授およびその思想を引き継ぐ教授陣よりマネジメント理論全般を学ぶ。専攻は経営戦略論とリーダーシップ論。
帰国後はIT系企業の執行役員としてマーケティングおよび事業開発責任者を歴任。現在は次世代経営リーダー育成、イノベーション・新事業創造に関する分野を中心に事業活動を展開。桃山学院大学ビジネスデザイン学部特任教授。米ボストン発祥のVenture Café Tokyo 戦略ディレクター。

書名に「本当のマネジメント」とあります。これはつまり、現状のマネジメントが間違っている、あるいは誤解があるということですか?

藤田勝利氏(以下、藤田氏):私は仕事で、多くの会社の経営者教育や、大学で起業家・経営者を目指す人の育成に携わっています。ほかにもイノベーションを起こそうとする人たちの支援もしていますが、経営に携わっていても、マネジメントとは何か、明確な定義を持たない人が意外と多いのです。

マネジメントをする人がマネジメントとは何か説明できない。

藤田氏:はい。もちろん答えは1つとは限りません。しかしマネジメントとは何かという原則部分をしっかり表現する、伝えていく必要はあります。そしてもう1つ、日本では、マネジャーを「管理職」と呼びます。おそらく最初に「マネジメント」という言葉が入って来たときに「管理」と訳してしまい、これが定着したと思うのですが、マネジメント=管理という翻訳には、違和感を覚えます。

最近は「管理職になりたくない」と言う人が増えているそうですが。

藤田氏:おそらく管理職にはなりたくないでしょうね。業務が増えて人を管理しなければいけない仕事に魅力があるでしょうか。マネジメントという言葉が企業の中でもう少し正しく理解されたり、共通のイメージを多くの人が持てたりしたら、マネジャーとして活躍できる人がもっと増えるのではないか、と思ったのです。

では改めて一言で、いえ「一言」では無理かもしれませんが、藤田さんの言葉でマネジメントの定義はどうなるのでしょうか。

藤田氏:「人材、人という資源を生かして価値の高い成果を上げ、価値の高い結果を出す」ということです。これはドラッカー教授も言っていることの要約ですが。

この定義自体、藤田さんがドラッカー・スクールに行って認識されたものなのですか?

藤田氏:本の中にも書いた通り、留学前は私も駆け出しマネジャーとして悩み、人とぶつかり、葛藤することが多く「マネジメントとは一体何をすることなのか」という軸を探している状態でした。何となくドラッカーという人の考えをたどっていくと、マネジメントの全体像や定義付けみたいなものが見えやすくなるのではないかと思っていました。

米ドラッカー・スクールとは

米国西海岸、ロサンゼルス郊外のクレアモント、ここにはクレアモントカレッジズがあり、ドラッカー・スクールをはじめする2つの大学院と5つのリベラルアーツカレッジで構成される。ピーター・ドラッカー氏はニューヨーク大学で教べんをとっていたが、ここクレアモントに移り、自らの理論に基づいて経営理論を教えるドラッカー・スクールで講義内容やカリキュラムの編成に当たった。MBA(経営学修士)の取得が可能だが、ドラッカー・スクールは自ら「ビジネス・スクールではなく、マネジメント・スクールだ」と学校案内にも記している。ドラッカー氏と長年親交があったイトーヨーカ堂の創業者であり現名誉会長の伊藤雅俊氏が私財を投じて多額の寄付をしている。正式名はピーター・F・ドラッカー伊藤雅俊経営大学院。

留学時、ピーター・ドラッカー氏はご存命で、実際に教えを受けられたのですね。いわば、最後の教え子世代だと思いますが、直接、教わったことで印象深いことは?

藤田氏:最初に言われたのが「Remember who you are.」ということでした。「あなたはいったい何者なのか」をまず、自分自身に問い掛けよ、という教えだったと思います。そのうえで「Take your responsibility.」自らの責任を果たせ、と。私に限らず多くの学生が、自分自身が何者かというのはあまり考えたことがなく、勤めている会社、肩書で自分を語ることが多かったのです。でも、ドラッカー教授は、肩書ではあなたを語れないし、あなたが何者かが曖昧であると、組織のマネジメントをするうえでも目的が曖昧になる、というのです。

 それで、自分とは何者か、何をすべき人間かを考えました。

「私はマネジャーです」という答えは成り立つのですか?

藤田氏:マネジメントは手段なので、ドラッカー教授いわく、何を目的にマネジメントをしていくのかということ、が一番大事なのです。何を目的に、その仕事を自分はマネージしていくのかが問われると思います。ほとんどの人は、その場では、すぐには答えられないと思いますね。

難しいですよね。

藤田氏:でも、自分自身がそれに答えられないと、マネジメントの中で部下の方やメンバーの方に、この仕事の目的は何か、ご自身の言葉で語ることもできないでしょう。この点が、マネジメントがうまくいかない問題のまず第1地点であることは間違いないなと思います。

最初は自分自身。書籍で取り上げている最初のテーマが「セルフマネジメント」ですね。

藤田氏:ドラッカー教授の言うマネジメントとは、自分自身を含めて資源として生かしていくということです。自分が生かされてない間は他者を生かそうとしても無理です。まずは、自分自身が何を目指すのかがよく分かってないと、それが組織をマネージするうえで最大のネックになります。この点は、私も学ぶうちに見えてきて、そこから思索が深まりました。その意味で最初のドラッカー教授の言葉は大きな衝撃でした。

人材活用のポイントは「強み」を生かすこと

マネジメントのポイントは人材を生かすということですが、生かすコツはあるのでしょうか。

藤田氏:これはもうドラッカー教授の教えの基本ですが、まず強みを生かすことです。ドラッカー教授の有名な言葉に「人は強みによって雇用される。弱みによってではない」とあります。

 強みを生かすことで、人は創造性と実力を発揮し、自信を深めていくことができます。

確かに就職のときは、自分の強みをアピールしますね。しかし、実際の仕事の場面では自分の希望する仕事ができなかったり、失敗のミスを責められたり、弱い部分を強くしろと言われることも多いと思います。

藤田氏:弱い部分を克服できて、自信につながれば一定の効果はあります。しかしドラッカー教授が言うには、弱みを補強してもせいぜい「並」の仕事しかできない、本当に優れた成果は強みからしか生まれない、ということです。

 日本企業の場合、組織の中で昇進していく人にマルチな才能を求め、例えば優秀な営業マンに、管理部門も経験したほうがいい、と部署異動させることがよくあります。もちろんうまく行けばいいのですが、営業ではどんどんチャレンジして顧客を広げた人が、ミスが許されない事務業務で苦労すると、自分の強みを生かせず、「あいつはだめだ」とレッテルを貼られて、本人も自信を失ってしまうことも少なくありません。有望な幹部候補が自滅するケースです。これは本人にとっても組織にとっても大きな損失です。

自滅する人の上司も問題ですし、本人も自分の強みを生かす努力が必要だと感じます。

藤田氏:それがまさにドラッカー教授が言っていることです。セルフマネジメントの重要なポイントでもあります。

ドラッカー氏が亡くなって時間もたち、ドラッカー氏の経営理論になじみがない人も増えていますが、重要な教えですね。

藤田氏:今、成功を収めている企業の経営者はドラッカー教授の経営理論に少なからず影響を受けたという人が多くいます。特に「CEO(最高経営責任者)」「CMO(最高マーケティング責任者)」などCが付く役職の方の多くは、今でもドラッカー教授の経営学からベースとなる経営方針を探ろうとされています。また最近はスタートアップの若い経営者から、ドラッカー教授の理論について教えてほしいと言われることが増えています。

なぜ今、改めてドラッカー氏の理論を学びたい人が増えているのか、次回はそのあたりと、さらにセルフマネジメントについて、もう少しお話を聞かせてください(第2回に続きます)。

『新版 ドラッカー・スクールで学んだ本当のマネジメント』

 マネジメントは「管理」ではない、「創造」だ──。ピーター・ドラッカー氏から直接教えを受けた著者が、ドラッカー氏が伝えたかった「本当のマネジメント」を解説する。

 日本ではマネジメントは「管理」、マネジャーは「管理職」と訳されてきた。だが、ドラッカー氏が本当に伝えたかったマネジメントの本質は、チームメンバーの強みを生かし、イノベーションを実践し、価値ある成果を生み出す、まさに「創造」のための方法論だった。

 著者は、ドラッカー氏が自らの理論を伝え、また彼と思想を分かち合う教授陣が教壇に立つ米ドラッカー・スクールで学んだ。ドラッカー氏から直接教えを受けた最後の世代にあたる。

 本書は経営の当事者として、またコンサルタントとして、著者が体験した多くの事例を取り上げながら、セルフマネジメント(自分自身のマネジメント)、マネジャーが目指すべき目的、マーケティングとイノベーション、組織とチームづくり、会計や情報技術との向き合い方、コミュニケーションなどドラッカー氏のマネジメント論を学ぶうえで鍵となる7つの重要テーマについて広く、深く解説する。ドラッカー氏の理論全体像を学び、それらを現場で活用するための具体的なヒントを得られる構成になっている。

 マネジメントは新入社員から経営層まで、さらに民間企業はもちろん自治体、非営利組織など、あらゆる組織に属する人が知っておくべき「教養」だ。マネジメントという教養を身に付けることで、仕事に対して自ら目的を設定し、他者を生かし、日々様々なイノベーションを実践して成果を上げる創造的な働き方ができるようになる。リモートワークをはじめ新しい働き方が広がる中、組織やチームにとって最も大切なことは何か、本書は豊富な事例ととともに分かりやすく解説する。

(四六判 全368ページ)
<内容紹介>
プロローグ 本当の「マネジメント」を学ぶ旅へ
第0章 深く学んでいただくために〜本書の前提、目的、全体像について〜
第1章 「セルフマネジメント」から始まる
第2章 マネジャーは何を目指すのか
第3章 マーケティングの本質〜顧客創造的な会社とは〜
第4章 イノベーションという最強の戦略
第5章 会計とマネジメント〜知識資本時代の利益〜
第6章 成果を上げる組織とチーム
第7章 情報技術とコミュニケーションについて、本当に大切なこと
エピローグ  マネジメント 明日を創る生き方、働き方

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