1970年代、高田賢三氏(前列右から2人目)をはじめ日本人デザイナーがパリコレなど世界に進出。その後も活躍を続け、日本のデザインに対する評価を高めた。(写真:Best Image/アフロ)
1970年代、高田賢三氏(前列右から2人目)をはじめ日本人デザイナーがパリコレなど世界に進出。その後も活躍を続け、日本のデザインに対する評価を高めた。(写真:Best Image/アフロ)

日本は欧米が作り上げたルールの中で勝負してきた。これからは?

海外に出ると、自分は何者かを説明しなければ始まらないところがあります。しかし、日本にいると、空気が読めて人様に後ろ指を指されないように生きる、自己主張しすぎるのはよくない、という価値観があるように思えます。最近よくいわれる“同調圧力”とも言えます。その結果、自ら発信することに積極的になれず発信力が磨かれない面もあるのでは。

脇田氏:そこを壊すことは日本の悲願だと思っています。決められたゲームの中でこつこつ頑張って勝てばいいというマインドセットが共有されているわけです。しかし、そもそも、ゲームのルール自体いったい誰が作っているのかという話が出てくるわけです。

 アートの世界も一緒ですが、欧米が作ったルールに日本が入れてもらっているんです。日本がルールを作ったものって世界にほとんど存在しないのです。そこをどう作るかを根本的に考えてもいいんじゃないかと思っています。

邉見氏:アーティストでもある脇田さんから見て世界や既存秩序の中で、勝負をする、勝ち抜いていくというのはどのように捉えられているのですか? 例えば、ファッションデザイナーでは、高田賢三さんや川久保玲さんといった方々は、一時代を築いたと言えますが、欧米の中に新しい異質のものを入れていくという観点での挑戦だったのか、それとも新しいルールというか何かをつくっていくということだったのでしょうか。

 似たようなケースで言えば、2000年代のマルタン・マルジェラもそうですよね。ラベルを付けず、ぼろ着みたいなデザインはかつてのコム・デ・ギャルソンからの応用だと思うのですが、どんな既成概念への挑戦なのでしょうか。脇田さんが手掛けているモダンアートの世界にもルールがあると思いますが、何に対して挑戦しているのでしょうか。

脇田氏:実は、デザインとかクリエイションの世界ほどルールが厳しい気がします。ファッションなんかはまさに欧州がつくったルールセットの中で、日本人が異質なデザインを持ち込む挑戦でした。それこそオートクチュールのメゾンになるためには作品やスタッフの数に決まりがあり、毎年2回のコレクションも発表しなきゃいけない。さまざまな厳しいレギュレーションが存在します。

 そこに挑戦したデザイナーたちは、パリのミラノを中心にする欧州のルールに沿うことによって初めて土俵に立てたわけです。ただ、そこから先はやっぱり思想とかコンセプトの勝負であって、例えば川久保玲さんや山本耀司さんら日本人デザイナーの「黒の衝撃」は高く評価されました。

邉見氏:デザイナーのようなクリエーティブの世界でも、規制が厳しいというのは意外でした。

日本は自分たちが持つ価値をもう一度見極めよ

脇田氏:アートの世界も同様で、世界最大のアート・バーゼル(編集部注:スイスの都市バーゼルで開かれる世界最大の現代アートのフェア)は参加のレギュレーションが厳しいことで知られています。

 今、アートの中心はニューヨークですが、ガゴシアンギャラリーとかペイスギャラリーなどの代表的な大手のギャラリーが売れる作家を決めているというのが実態です。それに加えて、一部のコレクターが何を買うかとみんなが見ていて、トップコレクターが購入したら、「これは次にくるぞ」とみんな買っていくわけですね。アーティストにとっては、そのような人や場につながることが第1ステップです。そこまで行って初めて勝負を始めることができるのです。

(写真=鈴木愛子)
(写真=鈴木愛子)

邉見氏:ルールを徹底的に理解した先に、コンセプトの勝負、きらりと光るスペシャリティーが生きてくるということですね。これから世界のルールやゲームが変わっていく中でも本質は変わらないのでしょうね。

 デザイナーに限らず、企業活動においても、世界あるいは投資家に対し発信ができているのか、安売りをしていないか。日本の捉え方というより、アジアの中での日本、世界の中の日本ということで物事を相対化して捉えることが重要だと思います。

 国と国との関係で考えると、日本が友好国だと思っても、相手は古くから付き合いのある数ある友好国の1つとしか見ていない、ということもあり得ます。プラスに捉えれば、先ほどのカタカナのTシャツのように、周囲は日本の価値を評価しているが、当の自分たちは理解しきれていないといったことはよく起こります。例えば、日本には素材産業など、きらりと光るスペシャリティーがあり、世界トップシェア(グローバルトップニッチ)を持つ企業などもあるわけですが、今はその価値に光が当たっていないので、自分たちを生かすビジネスチャンスにたどり着けていないケースもあります。

 その意味で、事実に照らしてありのままを見ていくことは、日本の相対的な課題を浮き彫りにするだけでなく、自分たちの価値再考にもつながっていくと思います。偉大なる職人としての評価だけでなく、ビジネスの世界で生き抜いていくには、このような情勢判断力が不可欠になってくると思います。

世界の経済の軸足がアジアに移っていく中では、従来のルールにとどまらない、新たな競争環境も生まれそうです。新しい時代の中にふさわしい秩序づくりに、日本はどこまで関わっていけるのか、さらにお二人にお話をお聞きしたいと思います。

(第2回に続きます)

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