日本国内だけで毎年、10億着の洋服が新品のまま廃棄される──。売れ残り製品の大量廃棄はアパレル業界にとって当たり前の慣習だったが、サステナビリティー(持続可能性)が求められる現在、見直しが急務となっている。そんなアパレル業界が生み出す無駄に半世紀前から警鐘を鳴らし、製造現場のイノベーションで変えていこうと挑戦を続ける人物がいる。2021年3月、日本経済新聞の連載「私の履歴書」でも話題を呼んだ島精機製作所の島正博会長だ。

 糸を縫い目のない立体的な服として編み上げ、製造段階でロスを出さないホールガーメント横編機をはじめ、数々の技術を開発した島会長は、“紀州のエジソン”と称される。ホールガーメント横編機はグッチやエルメスなど世界の高級ブランドに採用され、ユニクロ製品の製造現場でも活躍。その可能性に改めて注目が集まっている。島会長を長年取材し『アパレルに革命を起こした男』の執筆者でもある梶山寿子氏が島会長の果てない挑戦に迫る。(第4回)

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 新型コロナウイルスの脅威は、私たちの生活を一変させた。マスクの着用が当たり前になったことも、大きな変化の一つだろう。

 不織布マスクをはじめ、ハンドメイドの布マスクやウレタンマスクなど、さまざまな種類のマスクが出回るようになったが、コロナ禍が長期化するなか、アパレルメーカーやファッションブランドも独自のマスクを販売。デパートの目立つ場所にもマスク売り場が置かれるようになった。

 実は、島精機製作所でもホールガーメント横編機で編んだ3Dニットマスクを販売している(第2回で紹介した和歌山市のショップ「オーダー・ニット・ファクトリー」などで購入可能。ネット販売もあり)。

 種類はいくつかあるが、立体形状で着け心地が非常にいいことは共通している。ホールガーメント・ニット特有のしなやかなフィット感は、マスクにおいても利点となっているのだ。ストラップ部分を含めて一体として編まれているため、耳にかかるストレスも少ない。もちろん縫い目はなく、外観もすっきり。洗って繰り返し使える。

島精機製作所の島正博会長(写真=生田将人)

 筆者が和歌山を訪れたとき、島正博会長はじめ、島精機の方々は、そろってこの3Dニットマスクを愛用していた。

 コロナ禍にもかかわらず、島会長は相変わらず意気揚々。「毎晩、(晩酌で)アルコール消毒してるから、コロナは怖くありません」とジョークを飛ばす。今年で御年84歳。ご家族の心配は尽きないかもしれないが、あっぱれなそのバイタリティーに敬服するばかりだ。

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