世界で初めて、ユーグレナ(和名:ミドリムシ)の食用屋外大量培養を実現させた、鈴木健吾さん。バイオベンチャー・ユーグレナ社の共同創業者で、現在は研究開発担当の執行役員である。
東証一部上場企業となったユーグレナ社は、食品市場に続き、ユーグレナの油脂分を原料の一部に使ったバイオ燃料の製造にも乗り出し、注目を集めている。その成長は、東大農学部時代からユーグレナの研究に取り組んできた鈴木さんの存在なくして語れない。
「研究成果が社会に還元されない限り、社会は1ミリも変わらない」
そんな信念を持つ鈴木さんは、研究開発の「社会実装」を目指す科学者のフロントランナーだ。
このたび初めての著書『ミドリムシ博士の超・起業思考』を上梓した鈴木さんが、日本の大学における研究の在り方に問題提起する。
なぜ研究開発にロジックツリーをもっと使わないのか。
2005年12月、私たちユーグレナ社は、沖縄・石垣島でユーグレナ(和名:ミドリムシ)の食用屋外大量培養を実現した。同年8月にユーグレナ社を設立し、本格的に大量培養に挑んでからわずか4カ月後のことだった。
このときの研究開発のアプローチについて紹介したい。
当時、ユーグレナの大量培養に短期間で成功した秘訣の1つは、小さな実験を繰り返してPDCA(計画・実行・評価・改善)を高速に回したことだ。
具体的には、最終回答を目指して急いで大規模な培養を進めるのではなく、仮説を立てた上で小さな実験を大量かつ高速に行うことで学びを蓄積し、検証の精度を十分高めていった。
これにより、大きな失敗による後戻りをせずに大量培養実現にたどり着くことができた。
研究の中では、過去のデータから帰納的に「おそらくこういう仕組みであるはずだ」と推論し、大規模な実験にいきなり踏み出してしまうことがあるが、それでは失敗したときのコストが高くなる。
それに1回の実験規模が大きくなるほどいろいろな失敗要因が考えられるので、原因が絞り込みづらくなる。それでは仮説検証の精度が上がらないので、何を検証するための実験だったのか分からなくなってしまう。それに、お金をかけた分だけ1つの仮説を捨てることが心理的に難しくなる恐れもある。
私が意識したのは帰納的な推論とは逆の演繹的なアプローチ、すなわち、正しいことが分かっているロジックの積み上げで結論を導くという考え方だ。

ユーグレナ 執行役員 研究開発担当
1979年生まれ。2005年、東京大学大学院農学生命科学研究科修士課程在学中にユーグレナを設立し、取締役就任。16年、博士(農学)学位取得。18年より現職。19年、博士(医学)学位取得。理化学研究所 微細藻類生産制御技術研究チーム チームリーダー、マレーシア工科大学 マレーシア日本国際工科院 客員教授、東北大学未来型医療創造卓越大学院プログラム 特任教授(客員)を務める。写真は2007年のもの
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