「教科書通りの経営」で、経営学者からも注目を集める星野リゾート。その戦略に死角はないのか?

 米国経営学界で多くの受賞歴を持つ国際派の経営学者、三橋平教授と早稲田大学商学部の学生(木戸口未希子、祝瑞馨、友江黎)が、カテゴリー論を用いて分析する。

 市場において、競合がまったくいないユニークなポジションを占めることは、本当によいことなのか――このほど刊行された『星野リゾートの事件簿2』に基づくケーススタディー。

 星野リゾートの経営には優れたものがあり、さまざまな観点からその素晴らしさを説明することができる。前々回前回と分析してきた「提供価値の独自性」と、それに整合した「人と組織のマネジメント」は、その切り口の一例である。

 だが、成功企業の事例から学ぶべきことは、単に、成功をもたらしたメカニズムだけではない。さらなる成功に求められる条件や、成功に伴うリスクについても検討すべきである。

 そこで今回は、星野リゾートが抱え得る潜在的なリスクと、それに対する一般的な対応を考える。カテゴリー論という経営学の理論的視座を応用してみたい。

顧客が「カテゴリー」を求める理由

 まず、カテゴリーとは何か 。カテゴリーとは、産業や業種、市場の分類を意味する。定期刊行物という分類の中には、新聞、雑誌があるが、新聞という分類の中には、一般紙、経済紙、地方紙、スポーツ紙、業界・専門紙というカテゴリーがあり、専門紙というカテゴリーの中に「畜産日報」があるといった具合だ。また、レストランであれば、和食、洋食、中華、韓国、エスニックという食のジャンルによる分類も考えられるが、ファストフードやファミリーレストランなど業態によるカテゴリーも存在する。

 顧客はカテゴリーから多くの情報を得ている。

 例えば、ある人が友人に、「〇〇ハウスにごはんを食べに行かない?」と誘ったら、「どういう店?」という質問が返ってきたとする。「隠れ家ダイニングだよ」と答えれば、友人は何となく、その店の雰囲気を察することができるだろう。

 おそらくお店は大通りから一本入った路地裏にあって、入り口はちょっと分かりにくい。店内は落ち着いた雰囲気で暗めの照明、かかっている音楽はジャズといったところか。ドリンクメニューにはワインがあり、軽めのメニューが豊富、チーズも種類多くそろえているのではないか……。

 「隠れ家ダイニング」の例が示唆するように、カテゴリーは多くの情報を発信しており、顧客はカテゴリーを用いて、そのレストランをイメージしたり、理解したり、同じカテゴリーに属するほかの店との共通の特徴を想起する。これは企業のカテゴリーにも、製品やサービスのカテゴリーにも当てはまる。

 そして、特定のカテゴリーに属するものに共通する特徴は、権威を持つ誰かが「隠れ家ダイニングとは○○である」などと決めるわけではない。社会の中で自然発生的に合意形成されるものである。

「隠れ家ダイニング」という言葉には確固たる定義はないが、自然発生的に合意された共通のイメージはある(写真:PIXTA)
「隠れ家ダイニング」という言葉には確固たる定義はないが、自然発生的に合意された共通のイメージはある(写真:PIXTA)
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