アメリカの主要メガ・メディアは、ネット上の映像・音声配信サービスである、ストリーミングに相次ぎ参入し、「ストリーミング・ウォー」の様相を呈し始めている。しかし、米アニメ配信サービス、クランチロールの運営会社を買収したソニー(現ソニー・グループ)を除けば、日本勢は明らかに後手に回っている。ストリーミング戦国時代に、どうすれば生き残れるのだろうか。『ネットフリックス vs. ディズニー』(日本経済新聞出版)を刊行した、デジタルメディアウォッチャーの大原通郎氏に聞く、インタビュー続編(前回はこちら)。

なぜ、日本勢はストリーミングの潮流に出遅れてしまったのですか?

大原通郎氏(以下、大原氏):欧米でネット配信が始まった頃、私も日本側のビジネスに関わっていましたから、当時の状況は昨日のように思い出されますね。遅れた原因の1つは、当時テレビ番組がヒットし、地上波のみでビジネスが回っていたことです。ネットはコピーされやすく、海賊版がすぐに出回り、その損失のほうが大きいという意見も強かった。このためテレビ局のヒット番組を支えていたジャニーズ事務所など芸能プロダクションが、ネットを嫌ったんですね。例えば木村拓哉さん主演のドラマのホームぺージでは、彼の写真を使えないという時期がかなり続きました。

 本でも触れましたが、お隣の韓国では2000年からテレビ番組のネット配信を積極的に行っていました。当時韓国の公共放送KBSを訪れ、驚いたのは、アジア向けの海外番組の販売にもネットを有効活用していたことです。HPにアップされた番組に海外の事業者から問い合わせがあったら、メールでやりとりして販売が成立。放送用のマスターテープを送るだけで済むビジネスの仕組みです。営業マンがわざわざ番組DVDを持って海外出張しなくても、ネットのみで販売することを早くからやっていました。

大原 通郎(おおはら・みちろう)
デジタルメディアウォッチャー。 1954年生まれ。早稲田大学卒業後NHK入社。BS放送の発足に参画した後、TBSに移籍。ニューヨーク特派員など海外ニュース記者を務める。その後CSデジタル放送の立ち上げなどに携わる。14年、TBS退職。以後、海外のメディア動向の調査・執筆を続けている。メディア関連審議会の委員等歴任。

他の原因はなかったのですか?

大原氏:ライブドアによるフジテレビジョン(現フジ・メディアホールディングス)、楽天によるTBSへの敵対的買収の動きも大きかったですね。堀江貴文さん率いるライブドア、三木谷浩史さんの楽天は、当時プロ野球球団の買収をはじめ、積極的に事業を拡大していました。その絶頂期の勢いそのまま、突然テレビ局の買収を仕掛けたのです。

 放送局側からすると、戦後60年間営々と続けてきたテレビビジネスが、インターネットの若い会社に飲み込まれてたまるかという反発も強かったんです。海外のネット配信の動向も知ってはいたんですが、真剣に取り組む余裕はなかった。とにかく買収をどう防ぐかに全力投球しなければならなかったからです。

日本のドラマで、ネットフリックスでヒットしたものはありますか?

大原氏:最近では昨年『今際の国のアリス』、英語タイトルはアリス・イン・ボーダーランドというドラマがヒットしました。これは人気マンガが原作で、13年にアニメ化された作品の実写ドラマ化です。ゲーマーが、友人2人と迷い込んだ異次元の東京で、生きるか死ぬかの戦いを強いられる、というストーリーです。 

 ネットフリックスのオリジナル作品に求める3要件というのがあります。1つが、スーパーサイファイ(究極の空想科学ドラマ)、2つ目がロマンス、そして3つ目がアンダーグラウンド(主流ではないが個性的ドラマ)です。『今際の国のアリス』はまさにこの1つ目に当たりますね。

 2020年12月に世界190カ国で一斉に配信されると、SNS上でも話題となり、各国でも常にベスト5に視聴率を誇っていたそうです。ドラマの冒頭のシーンが良かったですね。世界中の誰もが知る東京・渋谷のスクランブル交差点を幻想的に描き上げたんです。主人公の3人が、無人のスクランブル交差点を渡り、廃虚ビルの一角に迷い込むと、ゲームの世界に飲み込まれていくシーンは、世界中の視聴者にアピールしたと思います。 

 監督は、2年前世界でも話題となった映画『キングダム』の佐藤信介氏で、企画段階から世界で通用するものをどう作るかということを考え、ネットフリックス担当者と一緒に作り上げた作品ですね。

 それ以前にも、オリジナルドラマの『全裸監督』やフジテレビの『テラスハウス』がヒットし、いずれもシリーズ化されました。

続きを読む 2/3 日本で加入者500万人を超えたネットフリックス

この記事はシリーズ「Books」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。