ディズニー以外のハリウッドの映画スタジオを傘下に持つ主要メディアはどういう状況ですか?

大原氏:整理しますと、ワーナーメディア、NBCユニバーサル、バイアコムCBSもストリーミングサービスを始めました。NBCユニバーサルは「Peacock」、ワーナーメディアは「HBO Max」、バイアコムCBSは「Paramount+」です。これで主要メディアがほぼ、ストリーミングのプラットフォームに参入したことになります。だから、ストリーミング戦争はこれからが本番です。

 ワーナーメディアの「HBO」は専門チャンネルの中でもキラーコンテンツを数多く持っています。日本でも話題になった『セックス・アンド・ザ・シティ』、最近では『ゲーム・オブ・スローンズ』。大半がアカデミー賞のノミネート常連です。これらをどのようにストリーミングに出してくるかにかかってきます。

 またパラマウントやNBCユニバーサルも、ビッグコンテンツを持っています。これらが全部揃って、ストリーミング市場で競うことになります。

ストリーミングと映画館の両立を目指すハリウッド

ハリウッドのスタジオはこれまで映画館チェーンと共に歩んできました。映画館とストリーミングへのコンテンツの振り分けは難しいでしょうね。

大原氏:映画館上映は、コロナの影響で今後も厳しい状況が続きます。ワーナーは、21年に作る17本の映画全部を、まずストリーミングの「HBO Max」で配信、1カ月後に遅れて劇場公開する方針を決めました。

 これまで、ハリウッドでは映画館上映の後、ストリーミング配信まで90日間開けなければならないというルールがありました。しかしNBCユニバーサルは、17日間に短縮しました。その代わりにネット配信から上がった利益の一部を映画館に還元することにしたんです。

 昨年、アメリカでは新型コロナで、ほとんどの映画館が閉鎖されました。ディズニーはブロードウェーの有名なミュージカルを映画化した『ハミルトン』の公開をあきらめストリーミング配信のみにしました。また、中国のウイグル自治区で一部のロケをしたことで問題となった『ムーラン』も上映をあきらめ、ストリーミングのみにしました。

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メディアの側から見れば、ストリーミングに転換することさえできれば、別に映画館じゃなくてもいいという判断になっているわけですね。

大原氏:いや、やはり映画館上映が本命です。ただコロナでストリーミング配信の利用が高まったことから、どちらも有効活用して売り上げを拡大しようとしています。コロナが収束したら、また映画館に大勢の観客が戻ってくると思います。

 私は米国に住んだことがありますが、都市郊外にはシネマコンプレックスがあり、週末には家族そろって食事した後、映画館に行って娯楽作品を見るというのが、アメリカ人の生活パターンでした。特に地方都市に行けば映画は数少ない娯楽の1つでした。

 ところが、コロナで巣ごもり生活を強いられ、娯楽は自宅でのテレビになりました。テレビ番組はつまらないと、みなストリーミング配信の「Netflix」「Disney+」「Hulu」などに加入したのです。

GAFA(Google、Amazon、Facebook、Apple)はどうですか。

大原氏:GAFAで元気なのは「アマゾンプライムビデオ」です。もっともアマゾンは映像ビジネスで稼ぐというより、ネットショッピングのプライム会員をいかに増やすかというのが狙いです。創業者のジェフ・ベゾス氏が「映像目当ての人がプライム会員になると、退会することなく末長く会員になってくれる」と述べていることでも分かります。

 とりわけ人気スポーツを配信すると、加入者がさらに増えます。米国ならアメリカンフットボールの試合をライブ中継したり、ヨーロッパではサッカーのチャンピオンズリーグの放映権を買ったりして、加入者を増やしています。米国のプライム会員の費用は、年額119ドルですので、会員が増えれば増えるほど固定収入がアマゾンに入ることになります。

 ネットフリックスのほうが、はるかにコンテンツオリエンテッドです。加入者を獲得したら、次から次へと話題のコンテンツを配信して、解約させないようにする。これが最重要課題です。だから大変な生みの苦しみを伴いますが、これまでは回ってきたんです。

 ネットフリックスには、よくこんなドラマを作れるなという作品もあります。『ザ・クラウン』はエリザベス女王を中心にイギリス王室や政治を描く連続ドラマです。2016年から配信が始まったのですが、昨年のシーズン4は、故ダイアナ妃と「鉄の女」サッチャー首相も登場し、何かと話題になりました。

 ところが、イギリス政府が懸念を示し、ネットフリックスに対し「フィクションを現実と勘違いする視聴者が出る」として、「これはフィクションである」とただし書きをつけるよう求める異例の事態となりました。ネットフリックスは結局、そのまま配信を続けましたが、王室もタブー視しない強気の姿勢に、加入者がますます増える好循環が続いているのです。

この本が詳述するメディア産業の急変化は、本質的には全産業で起こりつつある
─村上憲郎さん(元google日本法人社長)

新型コロナによる巣籠もり消費は、インターネットの動画配信、ストリーミングにとって絶好の追い風になった。躍動するネットフリックス、事業転換を図るディズニー、既存メディアを飲み込むGAFA、アジアで支配力を強める中国勢。存在感を失う日本――。デジタルメディアウォッチャーによる緊急報告。

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