火付盗賊改方、長谷川平蔵にも学ぶ

 この仕組みは渋沢が最初につくったものではありません。発想の原点には、江戸の寛政年間(1789~1801年)に、火付盗賊改方(ひつけごうとうあらためかた)のあの長谷川平蔵が、老中・松平定信に献策して設置された「人足寄場(にんそくよせば)」がありました。江戸にあふれる無宿者などを集めて収容し、手に職を付けて仕事を持たせて社会に帰し、犯罪者を減らすというプログラムです。

 渋沢は人足寄場の研究もちゃんとしていたのです。貧しいから犯罪に走る。だからといって金を与えても意味がない。犯罪者も経済的に更生して世の中を回す一員にすることが、誰にとってもいい。人足寄場、そして養老院の考え方は、経済の原則で言う「三方よし」です。自分にもいい、相手にもいい、そして世の中にもいい。

 そういう考えが、渋沢の頭には常にありました。あるとき三菱の創業者・岩崎弥太郎に屋形船に呼び出され、「俺と組めば日本の産業界を牛耳られる。三菱に来ないか」と誘われても、即答で断っています。岩崎に誘われる前に、三井の大番頭・三野村利左衛門(みのむら・りざえもん)にも誘われていますが、そちらも断っています。

 渋沢栄一は、多くの会社の創立、経営に関与しながら、自身の財閥を築こうとはしませんでした。まさに、日本資本主義の父の視点で、日本の近代産業と人材の育成に貢献し続けたのです。

(続く)

 先の見えない今、歴史家の加来耕三氏が、幕末・明治に活躍した渋沢栄一ほか、三菱や三井、住友などの財閥を興した不屈の起業家10人にフォーカス。歴史ファン、コロナ禍で厳しい状況に置かれている事業主、不安なビジネスパーソンらに向けて、希望の気持ちにスイッチを入れてもらうべく筆を執りました。

 「渋沢栄一」「安田善次郎」「浅野総一郎」「古河市兵衛」「三野村利左衛門」「広瀬宰平」「伊庭貞剛」「大倉喜八郎」「岩崎弥太郎」「岩崎弥之助」の、苦悩もありながらの痛快な生き方から、危機を突破する力を学べる一冊です。

この記事はシリーズ「Books」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。

ウェビナー開催、「一生健康で飲むための『飲酒の科学』」

■開催日:2022年5月30日(月) 19:00~20:00(予定、開場はセミナー開始10分前から)
■テーマ:一生健康で飲むための『飲酒の科学』
 

■講師:肝臓専門医 浅部伸一氏/酒ジャーナリスト 葉石かおり氏
■会場:Zoomを使ったオンラインセミナー(原則ライブ配信)
■受講料:日経ビジネス電子版の有料会員と日経Goodayの有料会員は無料で視聴できます(いずれも事前登録制、先着順)。視聴希望でまだ有料会員でない方は、会員登録をした上で、参加をお申し込みください。


>>詳細・申し込みはこちらの記事をご覧ください。