日本国内だけで毎年、10億着の洋服が新品のまま廃棄される──。売れ残り製品の大量廃棄はアパレル業界にとって当たり前の慣習だったが、サステナビリティー(持続可能性)が求められる現在、見直しが急務となっている。そんなアパレル業界が生み出す無駄に半世紀前から警鐘を鳴らし、製造現場のイノベーションで変えていこうと挑戦を続ける人物がいる。2021年3月、日本経済新聞の連載「私の履歴書」でも話題を呼んでいる島精機製作所の島正博会長だ。

 糸を縫い目のない立体的な服として編み上げ、製造段階でロスを出さないホールガーメント横編機をはじめ、数々の技術を開発した島会長は、“紀州のエジソン”と称される。ホールガーメント横編機はグッチやエルメスなど世界の高級ブランドに採用され、ユニクロ製品の製造現場でも活躍。その可能性に改めて注目が集まっている。島会長を長年取材し『アパレルに革命を起こした男』の執筆者でもある梶山寿子氏が島会長の果てない挑戦に迫る。(第2回)

環境保護のシンボルでもある、絶滅危惧種シロクマのぬいぐるみと島精機の島正博会長(同社ロビーで。写真提供:島精機製作所)

 従来のアパレルビジネスは、今、方向転換を迫られている。
 アパレル産業の裏方を支える編機メーカー、島精機製作所の島正博会長は、この日が来ることを早くから予見していたと、前回書いた。

 その島会長が、近年、力を入れているのが、同社の無縫製型のコンピューター横編機「ホールガーメント編機」を使ったオーダーメードの普及である。

技術革新が進み、オーダーメードが身近に

 大量生産・大量廃棄の負のスパイラルを脱する方法として、オーダーメードやマス・カスタマイゼーション(カスタマイズされた商品を手ごろな価格でマスマーケットに提供する手法)が注目を集めている。
 オーダーメードは高級品。とても手が出せない──。そう思い込んでいる人も多いかもしれないが、部分的にカスタマイズするセミオーダー(パターンオーダー)であれば、リーズナブルな価格で買えるものも増えてきた。メンズのスーツでも2万円程度からオーダーできるのだ。

 この低価格を支えるのが目覚ましい技術革新である。3Dボディースキャナーをはじめ、自動採寸の技術も進んでいる。スマホで写真撮影するだけでAIがサイズを割り出すなど、より正確で手軽なツールも次々に開発されている。数年前話題をさらった「ZOZOSUIT」はその先駆けだ。

 多くの人の手を必要としてきた縫製などの製造工程でも、イノベーションが起きている。その代表例が、島精機が開発したホールガーメント横編機だ。「無縫製型編機」「ホールガーメント」と聞いてもピンとこないかもしれないが、要するに、“3Dプリンターのニット版”だと考えれば分かりやすい。オーダーメードにこの編機を使えば、顧客の好みとサイズにぴったりのニットのワンピースが1時間ほどで自動的に編み上がる。

ホールガーメント横編機でつくられる多彩なニットウエア

 ホールガーメント横編機なら縫製の手間がいらないので、消費国やその近隣で生産できて、輸送のための時間やコスト、そして燃料も節約できる。何なら、顧客の目の前で製造することも可能だ。
 編み上がった服は縫い目がないため肌にやさしく、シルエットも美しい。デザインも幅広く、フリルが華やかなワンピースや、レースのような透かし編みのロングドレス、襟付きのジャケットなど、あらゆるものが自在に編めるのである。

 また、編機と連携するデザイン・ツール「デザインシステム」には、高精細3DCGを使ったバーチャル・シミュレーションの機能もある。糸や編地の質感、風合いをリアルに再現できるため、これを活用すれば実物のサンプルをつくる必要もない。
 こんな革新的な技術を数10年前に着想していたとは、島会長の先見の明に驚くばかりである。

 世の中にないものをつくれ。
 ないからつくれ。
 そして、なくてはならない会社になれ。

 それが島精機の掲げるビジョンなのだ。

続きを読む 2/2 和歌山でオーダーメードを開始

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