ビジネスにおける顧客満足の重要性を否定する人はいないだろう。

 しかし、顧客に支持される商品やサービスは、「顧客の満足を最大化」するだけではない。「顧客の負担を最小化」する。

 このような観点から、製品やサービスの本質的な価値を明らかにする概念が、「バリュー・プロポジション(提供価値)」である。

 この理論を、実際の企業に当てはめるとどうなるのか? 教科書的なケースとして、星野リゾートのビジネスモデルを分析する。

 米国経営学界で多くの受賞歴を持つ国際派の経営学者、三橋平教授と早稲田大学商学部の学生3人による寄稿。ケーススタディーの資料には、このほど刊行された『星野リゾートの事件簿2』を用いた。

 筆者は、早稲田大学商学部で教壇に立つ。昨年、担当した講義「経営学」で星野リゾートのケース分析をした。

 星野リゾートの星野佳路代表は、「教科書に即した経営」をしているという。とすれば、星野リゾートのケースは、経営学の授業で取り上げるのにふさわしい性質を持つ。

 学生が経営分析をするときの課題は、社会経験が限られていることだ。一方で、学生は論理的思考を得意とする。そんな学生であればこそ、星野リゾートの強みを明解に分析できるのではないか──。このような考えから生まれた本稿は、昨年受講した3名の早稲田大学商学部生(木戸口未希子、祝瑞馨、友江黎)との共著である。

 今回は、このたび発刊された『星野リゾートの事件簿2』に基づいて、星野リゾートが「教科書」的にどのように優れているのかを考察したい。

スタバの提供価値は「時間」

 企業は顧客に対して価値を提供し、対価を受け取ることで成り立っている。では、どのような価値を顧客に対し提供しているか。これをValue Proposition (バリュー・プロポジション:提供価値)と呼ぶ。

 分かりやすい例を挙げれば、スターバックスは、おいしいコーヒーではなく、「サード・プレイス(第3の場所)」を提供することで成長してきた。これは「コーヒーを片手に楽しめる、家庭でもオフィスでもない空間で過ごす時間」が、スターバックスの提供価値(バリュー・プロポジション)であることを意味する。

 提供価値の重要性を、顧客視点と企業視点の双方から考えてみよう。

 顧客の視点から考えると、提供価値が明確になれば、自分が何に対価を支払っているかを理解できる。なぜ自分が、類似する他社の商品・サービスでなく、「この会社」の商品・サービスを選んでいるのかが分かる。

 一方、企業の視点から考えると、顧客に何を届けたいかを明確にすることで、組織の方向性や意思決定の基準ができる。すなわち企業活動の基盤となる。

カフェの提供価値は「コーヒー」ではなく「その空間で過ごす時間」であるととらえることも可能だ(写真/ぱくたそ)
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