3万5000部のベストセラーとなった『読書大全 世界のビジネスリーダーが読んでいる経済・哲学・歴史・科学200冊』。人類の知の進化を「宗教と神話」「哲学と思想」「経済と資本主義」という3つの軸から読み解き、人類の歴史に残る200冊を紹介する壮大なブックガイドだ。著者である堀内勉氏に『天才読書 世界一の富を築いたマスク、ベゾス、ゲイツが選ぶ100冊』を執筆した山崎良兵が読書をテーマにインタビューする連載の第1回では、堀内氏の人生を変えた本について話を聞いた。
堀内さんがお書きになった『読書大全』を読んで感銘を受けました。とりわけご自身の人生を変えた本との出逢いと読書論、人類の知の進化を読み解くという内容の深さに圧倒されました。堀内さんは、そもそもなぜこの本を書こうと思ったのでしょうか。
堀内勉氏(以下、堀内氏):ある本との出逢いが私の人生を変えてくれたことが1つのきっかけです。私は東京大学法学部を卒業して1984年に日本興業銀行(現みずほ銀行)に入行し、ゴールドマン・サックス証券を経て、森ビルの取締役専務執行役員兼最高財務責任者(CFO)を8年間務めました。こう自己紹介すると「堀内さんってエリートなんですね」と言われることも多いのですが、実はどん底を経験しています。
興銀に入行した1980年代は、日本経済が飛ぶ鳥を落とす勢いで成長していた時代でした。エズラ・ヴォーゲルの『ジャパンアズナンバーワン─アメリカへの教訓』が出版されてしばらく経った頃で、まさにバブルの坂を駆け上がろうとしていました。
しかし1990年代に入るとバブルが崩壊し、1997年には深刻な危機が金融業界を襲います。長年にわたって隠してきた膨大な不良債権が表面化する中で、北海道拓殖銀行や山一証券といった大手金融機関が相次いで破綻し、私が勤務していた銀行もそのうねりに巻き込まれました。

当時の私は駆け出しの記者で、拓銀破綻の影響を探るために北海道で現地取材をして大型記事を執筆したりしていました。日本を代表する大手銀行でもいつ倒産するか分からないという緊迫感が強かったことを今も覚えています。
堀内氏:当時、私は銀行の経営企画部門に所属しており、巨額の不良債権の存在を隠しながら銀行を守らなければならない立場で、精神的にかなり追い詰められていました。その最悪のタイミングで起きたのが、大蔵省(現在の財務省と金融庁)の接待汚職事件です。大蔵省と銀行・証券会社との癒着にメスを入れようと東京地検特捜部が捜査に乗り出したのです。金融業界には激震が走り、逮捕者や自殺者が続出しました。私自身は上司の接待をアレンジするような立場で、実際に接待していたわけではありませんが、東京地検特捜部に呼び出されて、合計28回も取り調べを受けました。
毎日のように地検に呼び出されると、「自分も逮捕されるのではないのか」という恐怖を感じるようになります。逮捕される夢を見て、夜中の2時半ごろに汗びっしょりになって飛び起きるような日々が続きました。結局、私は責任者ではなかったので、起訴されたり、逮捕されたりすることはありませんでしたが、最終的に元上司が接待汚職事件で逮捕されました。
Powered by リゾーム?